ブルクミュラー18の練習曲 第8番《アジタート》。「焦り」を音にする短い物語

ブルクミュラー18の練習曲 第8番《アジタート》

ブルクミュラー《18の練習曲 Op.109》より、
第8番 「アジタート(Agitato)」を弾きました。

演奏動画はこちら👇

 

 

この曲、短いのにとても“濃い”んです。
ただ速い、ただ激しい・・・ではなく、もっと人間らしい感情。

「気がかりに追われて、落ち着けない」という心の状態が、
そのまま音になっているように感じます。

 

ブルクミュラー《18の練習曲 Op.109》とは?

ブルクミュラーというと、まずは《25の練習曲 Op.100》が有名ですが、
実はその後に続くような形で《18の練習曲 Op.109》があります。

 

25の方が「導入〜初中級の王道」だとすると、18の方はもう少し、
“曲の性格(キャラクター)を弾き分ける”ことに比重が置かれている印象です。

 

だからこそ、Op.109は「弾けるようになった」だけでは終わらず、
どういう気持ちで、どういう音色で、どういう息づかいで弾くかがおもしろくなります。
この《アジタート》は、その代表みたいな1曲です。

 

 

この曲の形式:A–B–A’–コーダ

《アジタート》は、A–B–A’–コーダ(6小節)の三部形式。

 

形だけを見るとシンプルですが、シンプルだからこそ、
同じ材料が戻ってくるのに、気持ちの温度が少しずつ変わっていくのが聴きどころになります。

 

Aに戻ったときに「同じに聴こえる」のか「違って聴こえる」のか。
そこに、演奏の“表情”がはっきり出ます。

 

 

「アジタート(Agitato)」の意味

“Agitato”は日本語だと「激しく」「興奮して」というふうに訳されることもありますが、
この曲でしっくり来るのは、もう少し日常的な感じです。

 

たとえば、

  • 気がかりが頭から離れない
  • 落ち着こうとしても、心が先に走る
  • 何かを忘れている気がして、そわそわする

そんな 「焦り」「落ち着かなさ」のニュアンス。

 

テンポが速い=アジタート、ではなくて、
焦りの質感をどう作るかが、この曲の面白さだと思います。

 

 

“落ち着けない物語”として聴くと、曲が立体になる

この曲を弾いていると、いつも浮かぶイメージがあります。
それは、派手なストーリーではなく、短い心の動き。

 

落ち着こうとして深呼吸をする。
「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせる。
でも、気持ちは完全には戻りきらない。

 

その揺れが、音の中で行ったり来たりする感じです。

 

だから、わたしはこの曲を「落ち着けない物語」として捉えています。

 

焦りの足音みたいな動きと、強弱の波の中で、
最後まで“落ち着ききらないまま”進んでいく。
短い曲なのに、妙にリアルです。

 

 

楽譜をながめてみよう。

《アジタート》を弾くとき、気をつけたいのは、
焦りを「速さ」だけで表現しないことです。

 

もちろんテンポ感は大事なのですが、
速くしすぎると、焦りよりも「ただ忙しい演奏」になってしまうことがあります。

 

わたしがこの曲で意識しているのは、主に2つです。

1)息(フレーズ)…落ち着きたいのに息が整わない

焦っているとき、人は息が浅くなります。
呼吸が整わないまま言葉だけが先に出る、みたいな感じ。

音楽でも同じで、フレーズの流れが「整いすぎる」と、逆に焦りが消えます。
少しだけ、息が追いつかないような感じ。
(もちろん乱暴にするのではなく、“気持ちが追われている”ニュアンスを残す)

それが、アジタートらしさにつながると感じます。

 

2)重心(タッチ)…指先だけで追いかけない

焦りの場面ほど、指先だけで音型を追いかけやすくなります。
でも、それだと音が軽くなりすぎて、焦りが“薄い”まま通り過ぎてしまうことがあります。

重心を落として、音の芯を保ったまま動く。
すると、焦りが「表面的な速さ」ではなく、
内側から湧いてくる落ち着かなさとして聴こえてきます。

 

 

演奏のポイント

最後に、この曲のためのポイントを短くまとめます。

  • 焦りをテンポだけで作らない(忙しさと焦りは別物)
  • 強弱は“波”で作る(ずっと強いままだと単調になる)
  • A’は「戻ったのに同じじゃない」を音色で(ほんの少しの変化で物語感が出る)
  • 最後まで“落ち着ききらない”余韻を残す(解決しすぎないのがこの曲の味)

 

 

演奏動画

あらためて、演奏動画はこちらです。

 

 

まとめ。短い曲ほど、心のニュアンスがはっきり出る

《アジタート》は、短い曲です。
でも短いからこそ、ごまかしがきかない。
そして、短いからこそ、心のニュアンスがそのまま音に表れます。

 

“Agitato”は、ただ激しいというより
「気がかりに追われて焦っている・落ち着かない」 という発想標語。
この曲を、そんな“落ち着けない物語”として聴いていただけたらうれしいです。

 

 

 

 

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