ピアノのレッスンや本番で起こる“思わぬミス”の理由は?

ピアノのレッスンや本番で起こる“思わぬミス”の理由は?

 

本番やレッスンで、「家では弾けていたのに…」と
悔しい思いをしたことはありませんか?

 

ピアノ講師として25年以上、生徒さんたちと向き合ってきた中で、
そんな場面に数えきれないほど立ち会い、
そして、自分自身も経験してきました。

 

この記事では、本番でのミスや緊張の裏にある
“心と脳のしくみ”を、やさしくひもといていきます。

 

少しでも、あなたのピアノとの時間が、安心できるものになりますように。

 

「家ではちゃんと弾けていたのに…」

本番やレッスンで、そんなふうに悔しそうに口にする生徒さんを、何人も見てきました。

 

そして、実はわたし自身も、何度も同じ言葉を心の中でつぶやいてきたひとりです。

 

「ちゃんと弾かなきゃ」
「失敗したら怒られるかも」
「前に注意されたところ、また間違えたらどうしよう・・・」

 

そんな思いがよぎるたびに、普段なら弾けているところでもミスをしてしまう。
うまく弾けなかった部分は、さらに悪化する。
そして最後にやってくるのは、「やっぱり私ってダメだな・・・」という自己否定の波。

 

でも、これって本当に「実力不足」なんでしょうか?

 

あなたは、本番でミスをしてしまったとき、心の中でどんな声が聞こえていましたか?
生徒さんが失敗したあと、どんな気持ちだったと思いますか?

 

実は、“ミス”の多くは「技術」よりも、
「心と脳の反応」によって起こる
ことがあります。

 

たとえば、本番でのあのドキドキは、
「闘争・逃走反応(fight or flight)」という脳の防衛反応。

 

脳が「失敗したら危ないかも」「恥ずかしい思いをするかも」と
判断すると、指や身体をこわばらせてしまうのです。

 

さらに、「前に注意されたところ、また間違えたら・・・」という思考がぐるぐるすると、
ピアノを弾くために使う脳の“ワーキングメモリ”がいっぱいになり、
本来の演奏力が発揮できなくなることも。

 

つまり、本番での“思わぬミス”は、
あなたの脳ががんばってあなたを守ろうとしているサイン。

 

失敗じゃなく、「心が反応した証」と捉えることもできるのです。

 

こんなふうに、ピアノと心の関係をひもといていくと、
“あのときのわたし”“ミスして泣いたあの生徒さん”にも、
やさしいまなざしを向けられるようになります。

 

次の章では、「どうすれば本番で“心の余裕”を取り戻せるのか?」を一緒に考えていきましょう。

 

なぜ「家では弾ける」のに、本番ではミスしてしまうのか?

ピアノを習っている多くの人が、一度は経験したことのあるこの“ギャップ”。

 

不思議ですよね。

 

家では通して弾けた曲が、レッスンや試験、発表会になると、急に音が飛んでしまう。
ミスタッチが続いて、焦ってさらに崩れてしまう——。

 

でも、これは「本番が苦手だから」と片づけるには、あまりにもよくある現象です。

 

 “安全な場所”と“評価される場所”では、脳の働きが違う

家での練習環境は、基本的に「安全な場所」です。

 

失敗しても誰かに見られているわけではないし、すぐにやり直すこともできる。
つまり脳が「リラックスモード」で動いています。

 

一方、レッスンや本番では、人に見られている、
評価されるという感覚が強くなります。

 

すると脳は、“間違えちゃいけない”というプレッシャーを感じ、
防衛モード=交感神経優位な状態へ。

 

これは、「うまく弾こう」と意識するあまり、
かえってミスを招きやすくなるという、
脳の“逆効果”のしくみなのです。

 

脳の処理能力を圧迫する「考えすぎ」

本番前や演奏中に、
「あそこ間違えないようにしなきゃ」
「今うまくいってる・・・このまま行けるかも」
「あ、間違えた・・・どうしよう!」

など、頭の中で考える量が多くなると
ピアノを弾く動作そのものに集中できなくなります。

 

これは脳の「ワーキングメモリ(作業記憶)」が、
処理する情報でいっぱいになってしまうから。

 

演奏中は、指の動きや音のイメージ、リズムの感覚など、
さまざまな情報をリアルタイムで処理しています。

 

そこに“余計な思考”が重なると、処理落ちのような状態になり、
ミスが出やすくなってしまうのです。

 

本番で思うように弾けなかったとき、
その裏には、ただの「ミス」ではない、
心の揺れや葛藤が隠れていることがあります。

 

実際に、発表会の本番で思わぬ失敗に涙した生徒さんのエピソードを、
別の記事で紹介しています。

 

ミスの向こうにある“本気”と“成長”について、
そっと寄り添う視点で綴ったものです。
よろしければ、あわせてご覧ください。

 

▶︎ 【本番で泣いた生徒が教えてくれたこと】

【ピアノ発表会】本番で泣いた生徒が、教えてくれたこと
ピアノ発表会でうまく弾けず涙を流した生徒。その子が見せてくれた“もう一度向き合う強さ”と、心に残る演奏の記録です。

 

だからこそ、「心の状態を整える」ことが大切

本番で力を発揮するには、
ただ練習量を増やすだけではなく、心と脳の準備も同じくらい大事だということ。

 

「失敗したっていい」
「間違えても、最後まで弾ききることが大事」
「ミスも含めて“今のわたし”」

 

そんなふうに、演奏する自分を“まるごと肯定”してあげることで、
脳の緊張がゆるみ、自然体で音楽と向き合えるようになります。

 

ミスした生徒に、どんな言葉をかけていますか?

ピアノを教えるなかで、「うまく弾けなかった…」と涙ぐむ生徒に出会うことがあります。

 

わたし自身も、昔はそうでした。

 

間違えてしまった瞬間に「やっぱりダメだ」と思い込み、そこから演奏が崩れてしまう。

 

そんなとき、先生や大人がどんな言葉をかけてくれるかで、
その子の“次”が変わることがあります。

 

「できた/できなかった」ではなく、「どう感じたか?」

ミスを指摘するのは簡単です。
でも、指摘の前に大切なのは、その子の心に寄り添うこと。

 

たとえば、こんなふうに聞いてみるのはいかがでしょうか?

 

「今日、弾いてみてどんな気持ちだった?」
「そのとき、どこがドキドキしてた?」
「いつもと違う感じがしたところ、あったかな?」

 

このように、“心の実況中継”を一緒にたどることで、
ミスが「失敗」ではなく、「気づきのチャンス」に変わっていきます。

 

✨安心感があると、脳は本来の力を発揮できる

人は「安心」しているとき、副交感神経が優位になり、集中力や創造性が高まります。

 

逆に、「怒られるかも」「評価されるかも」と感じていると、
脳は「守ること」にエネルギーを使ってしまいます。

 

つまり、心の安全基地をつくることこそ、演奏の安定につながる土台なのです。

 

声かけのヒント集(講師・保護者向け)

以下は、わたしがレッスンで実際に使っている言葉たちです。

 

生徒さんの様子や性格に応じて、少しずつ言い回しを変えています。

 

「ドキドキしながらも、最後までよくがんばったね」
「うまくいかなかったところ、どんな感じがした?」
「今日の演奏の中で、自分で“ここ好き”って思えた部分、あった?」
「ミスしても、音楽は止まらないよ。続けたその勇気がすごいね」
「人前で弾くって、本当にすごいこと。よくここまで来たね」

 

「間違えても、わたしは大丈夫」

そう思える経験を、ピアノを通して重ねていけたら、
どんなに素敵だろうと思います。

 

ピアノのレッスンは、音楽の技術だけではなく、
自己受容や自己信頼を育む場でもあります。

 

本番でうまく弾けなかったとしても、それをどう受け止め、次へつなげるか。

 

そのプロセスこそが、生徒の人生にとって大切な学びになるはずです。

 

だからこそ、わたしたち指導者は
「心にそっと手を添えるような存在」でありたいと思うのです。

 

 「ミス」から見えてくる、ほんとうのレッスン

ピアノの前に座ると、わたしたちは音だけでなく、
心の中までも感じ取ってしまいます。

 

うまくいかなかったとき、
思うように弾けなかったとき、
「なぜ?」と問いかけたくなることもあるかもしれません。

 

でも、そんなときこそ、
“自分にどんな声をかけているか”に、少し意識を向けてみてください。

 

「なんでできなかったんだろう・・・」ではなく、
→「あのとき、どんな気持ちだった?」とやさしく聞いてみる。
「ちゃんとやらなきゃ」ではなく、
→「この音、どんなふうに伝えたい?」と心に耳をすませてみる。

 

それだけでも、演奏はすこしずつ、自由になっていきます。

 

 今日からできる、小さな行動のヒント

レッスンや練習のあと、“できたこと”を3つ書き出してみる。

 

ミスしたときは、心の声を言葉にしてみる(「今、ちょっと焦ってたな」など)。

 

指導者の方は、生徒の演奏前に「まず深呼吸してみようか」
一言添えるだけでも変わります。

 

「ピアノがうまくなること」より、大切なこと

それは、ピアノを通じて“自分をまるごと信じられるようになること”かもしれません。

 

ミスしても、立ち止まっても大丈夫。
それも音楽の一部であり、あなたという“ひとつの作品”なのです。

 

どうか今日も、自分にやさしく、音と向き合えますように。

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