ピアノのセンスがない子どもは、上達しないの?
「うちの子、ピアノのセンスがないのかもしれない」
子どもがピアノを習っていると、
そんなふうに感じることはありませんか?
何度練習しても同じところで間違える。
リズムがなかなか取れない。
先生に教えてもらったことが、なかなかできるようにならない。
ほかの子と比べて、上達が遅いように感じることもあるでしょう。
「もしかしたら、ピアノに向いていないのでは?」
そんな疑問を持つ親御さんもいらっしゃると思います。
わたしは25年以上、ピアノ講師として多くの子どもたちを指導してきました。
その経験からお話しすると、
確かに音楽的なセンスには個人差があります。
ただし、センスがあるかどうかと、
ピアノが上達するかどうかは、別の話だということ。
今回は、子どものピアノのセンスについて、
指導する立場から考えてみたいと思います。
ピアノのセンスがない子って、いるの?
最初にお伝えしたいのは、音楽的な感覚には、
子どもによって違いがあるということです。
長年ピアノを教えていると、同じことを教えても、
すぐに理解できる子と、理解するまでに時間がかかる子がいることに気づきます。
たとえば、初めて聴いたリズムをすぐにまねできる子。
音の高さの違いを敏感に聴き取れる子。
曲の雰囲気を自然につかみ、教えなくても表情豊かに演奏する子。
そうした子どもたちに出会うと、
「音楽的な感覚がいいな」と感じることは、実際にあります。
一方で、リズムを取るのが苦手だったり、
音の違いを聴き分けるのに時間がかかったりする子もいます。
ですから、すべての子どもが同じような感覚を持っているわけではありません。
ただ、ここで気をつけたいことがあります。
それは、あることが苦手だからといって、
その子に音楽のセンスがないと決めつけないこと。
リズムを取るのが苦手でも、音をよく聴いている子がいます。
楽譜を読むのに時間がかかっても、曲の雰囲気をつかむのが上手な子もいます。
そもそも音楽には、さまざまな能力や感覚が関わっています。
一部分だけを見て、その子の音楽的な可能性を判断することはできないのです。
ピアノのセンスとは、何を指すのか
ところで、ピアノのセンスとは、いったい何でしょうか?
この言葉は、日常的によく使われていますが、実はとても曖昧です。
たとえば、ピアノを演奏するうえで役立つ能力には、次のようなものがあります。
- リズム感:一定の拍を感じたり、リズムの違いを捉えたりする力
- 音を聴く力:音の高さや響き、音色の違いに気づく力
- 表現する力:曲の雰囲気を感じ取り、音で表現する力
- 身体を使う力:指や腕などを協調させて動かす力
- 音楽を理解する力:メロディーやフレーズ、曲の流れを捉える力
これらは、すべてピアノの演奏に関わるものです。
でも、最初からすべてが得意な子ばかりではありませんし、
こうした力は生まれ持ったものだけで決まるわけでもありません。
音楽を聴いたり、歌ったり、
楽器を演奏したりする経験を通して育っていく部分もあります。
たとえば、リズム感があまりよくないと感じる子でも、
繰り返し拍を感じる経験を重ねることで、
少しずつリズムを捉えられるようになることがあります。
音を聴き分ける力も同じです。
ただ何となく音を聴くのではなく、
音の違いに意識を向ける経験を積み重ねることで、
聴き方が変わっていくことがあります。
つまり、今できることと、これから身につけられることは別なのです。
幼い頃の様子だけで、その子の音楽的な能力を決めてしまうのは、
少し早いのではないかと思います。
センスがなければ、ピアノは上達しない?
では、音楽的なセンスがあまりよくない子は、
ピアノの上達も難しいのでしょうか。
わたしは、そうは思いません。
もちろん、音楽的な感覚が優れていることは、
ピアノを学ぶうえで有利に働くことがあります。
初めての曲でもリズムをすぐに理解できたり、
耳で聴いた音を自然に再現できたりする子は、
学習がスムーズに進むこともあるでしょう。
でも、それだけが上達を決めるわけではありません。
ピアノの上達には、練習の積み重ねや、学び方、
そして指導の仕方も大きく関わっています。
たとえば、リズムをうまく取れない子がいたとします。
楽譜を見ながら何度弾いても、同じところでリズムが崩れてしまう。
そんなとき、ただ「もう一度弾いてみよう」と繰り返すだけでは、
なかなか改善しないことがあります。
でも、ピアノから一度離れて、
手をたたきながらリズムを感じてみたらどうでしょう。
言葉に置き換えてリズムを読んでみたり、
先生の演奏を聴いてまねしてみたり。
その子に合った方法を探すことで、
それまで理解できなかったことが、わかるようになる場合があります。
これは、ほかの学習でも同じですよね。
説明を聞くだけで理解できる子もいれば、
実際に体験することで理解が深まる子もいます。
できない原因が、その子の能力だけにあるとは限らないのです。
指導する側が、どのように伝えるか。
どんな順番で学んでいくか。
どこでつまずいているのかを見つけ、
どのような方法で理解につなげていくか。
そうしたことも、子どもの上達に関わってきます。
だからこそわたしは、「この子はセンスがないから」と、
それだけで判断してしまうのは、もったいないと思うのです。
子どもの「できない」をどう見ればいい?
では、親御さんは、子どもがなかなか上達しないとき、
どのように見守ればよいのでしょうか。
まず大切なのは、できないという結果だけでなく、
何が難しいのかにも目を向けることです。
たとえば、同じ曲を何週間も練習しているのに、なかなか仕上がらない。
そんな姿を見ていると、
「どうしてこんなに時間がかかるのだろう」と思うこともあるでしょう。
でも、ひと口に「弾けない」といっても、
その理由はいろいろあります。
楽譜を読むことが難しいのかもしれません。
指を思いどおりに動かせないのかもしれません。
音はわかっていても、両手を一緒に動かすことに苦労しているのかもしれません。
あるいは、練習の仕方がまだよくわかっていないこともあります。
こうした違いは、外から見ているだけでは、なかなかわかりません。
そこで、親御さんにおすすめしたいのは、先生に相談してみることです。
「うちの子はセンスがないのでしょうか?」と聞くよりも、
「今、どんなところが難しいのでしょうか?」とか、
「家では、どんな練習をするとよいでしょうか?」と聞いてみる。
その方が、子どもの現状や必要なサポートが具体的に見えてくると思います。
また、ほかの子どもと比べるのではなく、
少し前のお子さんと比べてみることも大切です。
以前は片手でしか弾けなかった曲が、両手で弾けるようになった。
何度も間違えていたところが、少しずつ弾けるようになってきた。
そんな小さな変化も、立派な成長です。
上達のスピードには個人差があります。
すぐにできるようになることだけが、成長ではありません。
時間をかけて理解したことが、
その子の確かな力になっていくこともあるのです。
子供のピアノがなかなか上達しないときには、
センスの有無だけでなく、練習の仕方や学習、環境など、
さまざまな面から考えてみることも大切です。
ピアノが伸び悩む子供に見られる特徴や、
上達につなげるためのヒントについては、
こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
関連記事:ピアノが伸びない子に共通する特徴と改善のヒント

そもそも、何のためにピアノを習うのか
最後に、もうひとつ考えてみたいことがあります。
それは、そもそも何のために子どもにピアノを習わせるのか、ということです。
ピアノが上手になってほしい。
せっかく習っているのだから、いろいろな曲を弾けるようになってほしい。
そう願うのは、親御さんとして自然なことだと思います。
ただ、ピアノを習う目的は、それだけでしょうか。
自分の好きな曲を弾けるようになること。
音楽を聴く楽しさを知ること。
難しいことに挑戦し、少しずつできるようになる喜びを味わうこと。
あるいは、学校や家庭とは違う場所で、先生と音楽を通して関わること。
ピアノを習うことで得られるものは、演奏技術だけではありません。
もちろん、長く習っていても思うように上達しないことはあります。
練習を嫌がったり、なかなか意欲が続かなかったりすることもあるでしょう。
そんなときこそ、センスがあるかないかを考える前に、
子ども自身がピアノをどう感じているのか、
目を向けてみてほしいと思います。
ピアノを弾くことが好きなのか。
どんな曲を弾けるようになりたいのか。
今、何を難しいと感じているのか。
その子自身の気持ちを知ることで、
これからの学び方が見えてくることもあります。
わたしは長年、さまざまな子どもたちとピアノを通して関わってきました。
その中で、音楽的な感覚に違いがあることも、
上達のスピードに個人差があることも、実感してきました。
だからこそ、センスの違いを否定するつもりはありません。
でも、センスがあるかどうかだけで、
子どものピアノの可能性を決めてしまう必要もないと思っています。
今は苦手でも、学び方によってできるようになることがあります。
時間をかけることで、少しずつ育っていく力もあります。
そして何より、音楽を学ぶことには、
上手になることだけでは測れない価値があります。
「うちの子、ピアノのセンスがないのかもしれない」
そう感じたときには、ぜひ、その子がこれまでにできるようになったことにも
目を向けてみてください。
今見えている姿だけが、その子のすべてではないのです。
