ヤマハ音楽教室講師歴25年以上の経験を持つピアノ講師が悩みに寄り添います。
子どもの“ムリ”にはどんな思いが隠れているのか?
ピアノレッスンや日常生活の中で、子どもが「できない」や「ムリ」という場面に直面したことがある方は多いと思います。
この言葉の裏には、ただの諦めや甘えだけでなく、
さまざまな気持ちや理由が隠れているのです。
今回は、子どもの”ムリ”に隠れた思いを探り、
それに対する講師や親の対応について考えていきたいと思います。
“ムリ”の本当の理由
- 失敗が怖い
「ムリ」と言うとき、子どもは失敗するのが怖いのかもしれません。
ピアノの新しい曲や難しいフレーズに挑戦するとき、
「うまくできなかったらどうしよう」と思思ってしまい、
あらかじめ諦めることで自分を守ろうとしています。 - 自信をなくしている
「どうせ自分にはできない」と感じてしまうこともあります。
こういった裏側には、以前の失敗や周りの子どもたちと
比べられた経験があるからかもしれません。 - ちょっと難しすぎる
「ムリ」と言うのは、本当にその課題が難しいと感じている場合もあります。
大人には簡単に見えることでも、子どもにとっては大きな壁に感じられることがあります。 - もっと気にかけてほしい
「ムリ」と言うことで、大人に注目してもらいたいという
気持ちが隠れていることもあります。
「もっと見てほしい」「手伝ってほしい」というサインかもしれません。 - 疲れている、気分が乗らない
単純に疲れていたり、気分が落ち込んでいたりすることもあります。
この場合、「ムリ」はその時の一時的な感情かもしれません。 - 過去のネガティブな経験
ピアノやその他の活動で、過去に失敗したり、
否定的な言葉を受けたりした経験が影響している可能性があります。
その結果、「また失敗したらどうしよう」という思いが強くなります。 - 努力に対する間違った考えがある
子どもによっては、「努力=できない自分を認めること」と感じることがあります。
努力することで「自分は最初から才能がない」と証明してしまうように感じるのです。 - 自分を守ろうとする思い
親や先生が「褒める」ときにプロセスではなく
「結果」にだけフォーカスしている場合、
子どもは「できなければ価値がない」「うまくできないと褒めてもらえない」と
感じてしまうことがあります。
そのため、「ムリ」と言うことで挑戦を避け、自分を守ろうとします。 - 集中力やエネルギーの不足
「できない」と言うことが、必ずしも心理的な壁だけが原因ではありません。
「今日はなんだかやる気が出ない」など、
レッスン中に集中力が切れていたり、体調や気分がよくなかったりする場合もあります。 - 他人と比較している
他の生徒や兄弟姉妹と自分とを比較して、
自分の方が劣っていると感じている可能性があります。
「自分はどうせ下手だから無理」といった劣等感が
「ムリ」という言葉として表れます。 - 自己表現としての「ムリ」
言葉にすることで、大人に自分の気持ちやできないことを
伝えようとしている可能性もあります。
ただし、「ムリ」という言葉は抽象的なので、
何が問題なのかは伝わりにくい場合があります。
「助けてほしいけど、どう言えばいいかわからない」という心理状況も考えられます。 - 先が見えないことによる不安
「できる」という状態が具体的にイメージできていない場合、
達成感を得られるゴールが見えなくて、「ムリ」と感じてしまうことがあります。
「何を目指しているのかわからない」といった状況になっているかもしれません。 - 遊びたい気持ちの優先
特に小さい子どもの場合、レッスンの時間にピアノよりも遊びたい、
自由にしたいという気持ちが強く、「ムリ」という言葉で
興味の方向性を表している可能性もあります。
「今はピアノじゃなくて他のことがしたい」とただ考えているだけなのかもしれません。
講師としてできること
- まずは気持ちを受け止める
「ムリ」と言われても否定せずに、「そうなんだね」と受け止めてみましょう。- 例: 「そう感じるんだね。どの部分が難しく感じたのかな?」
子どもが自分の気持ちを受け止めてもらえると、安心して次のステップに進みやすくなります。
- 少しずつ進める
課題を細かく分けて、小さな目標をクリアしていけるように工夫します。- 例: 「この一音だけ弾いてみよう!できたら次に進もうね。」
小さな成功体験を積み重ねることで、自信を取り戻せます。
- プレッシャーを和らげる
「完璧に弾く」ことよりも「音を楽しむ」ことに目を向けてもらうように声をかけましょう。- 例: 「今日は楽しむ練習にしてみようか!」
- 一緒に考える
「どうしたらできるかな?」と子どもと一緒に方法を考える姿勢を見せましょう。- 例: 「先生も一緒にやってみるよ!どこを変えたらやりやすくなるかな?」
- 未来をイメージさせる
「弾けるようになったらどんな気持ちになるかな?」と、できたときのイメージを想像してもらう。
親としてできること
- 気持ちに寄り添う
- 例: 「難しいって思うんだね。そう感じるのは自然なことだよ。」
共感する声かけは、子どもに「分かってもらえた」と感じさせます。
- 「ムリ」を否定しない
- 「ムリって言わないで!」ではなく、「ムリって思うときもあるよね。でも、ちょっとだけ試してみようか?」と促します。
- 挑戦する姿勢をほめる
- 例: 「さっきは難しいって言ってたけど、やってみたね。えらいね!」
結果ではなく、挑戦したことをほめると、子どもは前向きな気持ちになれます。
- 安心感を伝える
- 例: 「全部うまくやらなくても大丈夫。少しずつでいいんだよ。」
親からの安心感は、子どもにとって大きな励みになります。
- 子どものペースを尊重する
- 無理に急がせず、子ども自身のペースを大切にしましょう。
また、上記の中の「ムリ」という言葉を否定しないという考え方は、
なかなか受け入れることが難しいことかもしれません。
大人としては「そんなことないよ」「やればできるよ」と励ましたり、
「ムリって言わない!」と否定したくなるのは自然な反応です。
ただ、それが子どもにとって逆効果になることもあります。
「ムリ」を否定しない理由
- 子どもの本音を抑え込まない
「ムリ」と言うのは、子どもが自分の気持ちや困難を表現するひとつの方法です。
例えば「ムリって言っちゃダメ」と言われると、
気持ちを押し込めたり、先生や大人に本音を隠そうとしてしまいます。
- 対話のきっかけになる
「ムリ」という言葉には、その子なりの理由や背景があります。
その理由を探ることで、子どもが何を感じているのか、
どんな助けが必要なのかがわかります。
例えば、「ムリってどういうことかな?難しいって感じたのかな?」と優しく聞くことで、
子ども自身も自分の気持ちを整理できるきっかけになります。 - 「ムリ」は一時的な気持ちであることが多い
子どもが「ムリ」と言うのは、その瞬間に感じていることです。
否定せず受け止めると、その後に気持ちが変わることもあります。
例えば、「今はそう思うんだね。でも、少しやってみたら変わるかもしれないね」と促すと、前向きな気持ちに切り替わることがあります。
「ムリ」と言えることで生まれる安心感
子どもが「ムリ」と言ったとき、それを責めずに、
「この子は自分の気持ちを伝えているんだ」と受け止めてあげることで、
子どもとの信頼が深まります。
特に、ピアノのレッスンのような個人指導では、
先生との信頼関係が子どものやる気に大きく影響します。
「ムリ」と言われても、それを認めて、
「じゃあどうしたらできるかな?」と一緒に考える姿勢は、
子どもにとってとても安心できるものです。
その結果、「ムリ」だったことが「やってみようかな」に
変わる瞬間が少しずつ増えていきます。
まとめ
子どもの「ムリ」という言葉には、いろいろな気持ちが隠れています。
その背景を理解し、受け止めて寄り添うことで、
少しずつ「できるかも」という気持ちに変わっていきます。
講師としては、小さな成功を積み重ねる工夫を。
親としては、安心感を与えながらそっと背中を押す声かけを意識してみてください。
一緒に子どもの成長を見守りながら、楽しい時間を過ごしましょう!