ヤマハ音楽教室講師歴25年以上の経験を持つピアノ講師が音楽について語ります。
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2025年1月1日に開催された
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートは、
イタリアの名指揮者リッカルド・ムーティさんが指揮をされました。
ムーティさんがこのコンサートを指揮するのは7回目で、
ウィーン・フィルとの50年以上にわたる
深い関係が反映された演奏会となったようです。
下のプレイリストは、公開されたばかりの
「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート2025」の音源です。
そして下のリンクは、2024年末に投稿したニューイヤーコンサートに関する記事です。

それでは、ここから2025年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートを観た感想を書いていきたいと思います。
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ムーティさんが前回指揮台に立ったのは、2021年のこと。
その年はコロナの影響で、史上初の”無観客”で開催されました。
ムーティさんは、無観客での公演に際して、
「私たちが世界中にお届けしたいのは、美しい音楽だけでなく
〈希望〉と〈平和〉への想いです」と語られました。
この年のプログラムは、ヨハン・シュトラウス2世の「春の声」、
「皇帝円舞曲」をはじめ、全15曲中7曲が初演奏の作品でした。
ムーティさんはイタリアとオーストリアの文化的な結びつきを
表現する目的で選曲を行なったとされています。
そして、あれから4年後の今回、7回目のニューイヤーコンサートの指揮台に立つムーティさん。
今年は、ヨハン・シュトラウス2世の生誕200周年のメモリアルイヤー。
今年のプログラムでも、ヨハン・シュトラウス2世の作品が半分以上、
全17曲のうち10曲が彼の作品でした。
またこのコンサートでは、「ワルツ」と「ポルカ」が交互に演奏されます。
「ワルツ」と「ポルカ」の基本について説明は下のリンクの記事をご覧ください。

交互に、というところが、バランスが取れていて、
聴いているわたしたちも飽きないで聴くことができるのだと思います。
これがウィンナーワルツと思わせる気品あふれる曲。「オーストリア村のつばめたち」
ヨーゼフシュトラウス作曲の「ワルツ「オーストリアの村のつばめたち」は
とても優雅な雰囲気を感じさせますね。
冒頭から、「ウィンナーワルツだな」と思わせる気品あふれる雰囲気がニューイヤーコンサートをさらに盛り上げてくれているようでした。
また、つばめの鳴き声も音楽と一体となっていて、
ヒーリング音楽を聴いているような感覚にもなり、
元旦から心が癒される感覚がしました。
初の女性作曲家の登場
またコンスタンツェ・ガイガー作曲の「フェルディナンド・ワルツ (Ferdinandus-Walzer), Op.10 [編曲: W. デルナー]も素敵でした。
ウィーンフィルハーモニー・ニューイヤーコンサートでは初めて演奏された曲です。
しかも、作曲者のガイガーという方はオーストリアの作曲家、
ピアニスト、歌手で6歳という若さですでに舞台で演奏を行なった人だとか。
今回のコンサートでは、女性の作曲家の作品を取り上げることで、
音楽界における多様性や女性作曲家の存在をより広く認識し、
評価しようという意図があったのではないかと感じています。
とてもやわらかで繊細なメロディ、
ピンと張りつめた空気が解けていくような感覚がしました。
そして、クライマックスに向けてテンポが加速し、
ラストは迫力に満ちた演奏でフィナーレを迎えました。
ガイガーの音楽が再評価され、その貢献が多くの人たちに伝わることが、
今回の演奏の大きな意味のひとつだと思われます。
蒸気機関車とコラボ。 ポルカ・シュネル「あれかこれか!」
とてもテンポの速いポルカ。
とてもインパクトのある主題で、
一度聴いたら忘れられないほど頭に焼きつきます。
そしてこの曲では、演奏をバックにバレエシーンが流れてきます。
ウィーン産業技術博物館の中にある機関車を前に踊っています。
ヨハンシュトラウス2世の時代は、
蒸気機関車が交通の主流になっていた時代。
当時の鉄道や蒸気機関車が、
19世紀のヨーロッパ社会の中で象徴的な存在であり、
文化的また技術的に大きな進歩を遂げた時代でした。
当時の空気感を表現する意図もあったのでしょうね。
また、活気に満ちたポルカの楽曲に合わせて踊ることで、
蒸気機関車のリズミカルな動きや汽笛の響きと調和しやすく、
わたしたちに驚きと楽しさを提供してくれました。
機関車の車輪が動くような動きをダンスに取り入れていたりと、
振りつけにも注目でした。
ヨハン・シュトラウス2世 ポルカ・シュネル「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
プログラムの終盤で演奏された、速いポルカ「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
この曲は聴き手のわたしたちにとっても、
とても馴染みのある曲で、
しかも聴きたい曲の上位に入っているのではないでしょうか。
イキイキとした雰囲気があり、聴いているだけで楽しい気分にさせてくれます。
ムーティさんの指揮では、前へ突き進む感じがすごく伝わってきて、
自然と踊りたくなってくるような気持ちになりました。
「トリッチ・トラッチ」というのは、ドイツ語で、「おしゃべり」や「世間話」という意味。
日常の何気ない街角での会話の風景が浮かんでくるような音の掛け合いが特徴的です。
独特の感性で魅了する ヨハン・シュトラウス2世「美しく青きドナウ」
演奏会のアンコールで演奏される、ヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」。
毎年恒例の楽曲で、指揮者によっても解釈がそれぞれあって、
とても楽しみな一曲です。
ムーティさんは、伝統的な要素を尊重しつつ、
そこに独特の感性を加えていくというスタイル。
ウィーンに対する深い愛情と、
時代を超えた普遍的な美しさを追求する美学を感じます。
ウィンナーワルツ特有のリズム(アクセントが微妙にずれたやわらかな3拍子)を尊重しながらも、さらに洗練されたものに仕上げているようでした。
音楽のフレーズやテンポの変化を自然に聴かせるところであったり、
曲の途中でテンポが揺れ動く場面も、聴き手にとって驚きというよりは、
むしろ自然な流れとして感じらました。
ウィーンフィルとムーティさんの関係性がよくわかる一曲だったのではないでしょうか。
まとめ。伝統と新しさが響き合う感動のひととき
ウィーンフィル・ニューイヤーコンサートは、ただ音楽を聴くだけでなく、
その背景にある歴史や文化、そして演奏者たちの情熱に触れる体験でもあります。
今年もまた、このような貴重なときを通じて、
音楽の力と美しさをともに味わえる幸せを感じています。
ムーティさんの指揮から生まれる深い感情表現や、
バレエと蒸気機関車とのユニークな演出、
そして伝統の中に新しい息吹を感じさせる楽曲の数々が一体となって、
観ているわたしたちに心地よい時間を残してくれました。
音楽の持つ力は、時代や形式を超えてわたしたちをつなぎ、
心を豊かにしてくれるのだとあらためて感じました。
来年のコンサートもどのような驚きが待っているのか、今から楽しみです。