ヤマハ音楽教室講師歴25年以上の経験を持つピアノ講師が音楽について語ります。
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舞台『マスタークラス』—— マリア・カラスが遺したもの
オペラ史に名を刻む伝説的なソプラノ歌手、マリア・カラス。
彼女の存在は、歌手というだけにとどまらず、
音楽の世界を根底から変えた革命的なアーティストでした。
下のプレイリストは、2023年にリリースされた
マリア・カラスの歌った名曲が揃ったベスト盤です。
そんな彼女の晩年に焦点を当てた舞台『マスタークラス』を観劇し、
彼女の魅力、そしてこの作品の持つ力についてあらためて考えさせられました。
マリア・カラスという存在の魅力
マリア・カラスは「ラ・ディヴィーナ(歌の女神)」と称されるほど、
その表現力と圧倒的なカリスマ性でオペラ界に新たな時代をもたらしました。
彼女が歌うと、そこには歌声を超えた「物語」が生まれました。
たとえば、《ノルマ》の「カスタ・ディーヴァ(清らかな女神よ)」では、
聴く者の心を震わせるような神聖さが漂い、
《椿姫》ではヴィオレッタの切なさと情熱が痛いほどに伝わってきました。
しかし、彼女の人生は華やかな舞台の裏で、常に孤独や葛藤とともにありました。
声の衰え、大富豪オナシスとの波乱の恋愛、そして突然の引退。
彼女の人生そのものが、まるでドラマのようでした。
舞台『マスタークラス』とは?
舞台『マスタークラス』は、そんなマリア・カラスが
ニューヨークのジュリアード音楽院で行った公開レッスンをもとにした作品です。
現役を退いたカラスが、若い音楽家たちに向けて芸術の本質を語りかける・・・。
そのレッスン風景を描きながら、彼女の人生が巧みに浮かび上がる構成になっています。
この舞台の特徴は、「先生と生徒のやり取り」にとどまらず、
カラス自身の思いが言葉のひとつひとつに滲み出ること。
彼女が生徒を指導する中で、過去の栄光や傷ついた記憶が蘇り、
そこに強烈なドラマが生まれます。
オペラに詳しくなくても、彼女の言葉のひとつひとつが心に響く。
観ているうちに、「これは彼女自身の人生のレッスンなのではないか」と
感じさせられるほど、カラスの魂が息づく舞台でした。
望海風斗さんの演技と舞台の魅力
この作品でマリア・カラスを演じたのは、元宝塚歌劇団トップスターの望海風斗さん。
彼女の演技に、わたしはすっかり引き込まれてしまいました。
カラスという人物の持つカリスマ性、厳しさ、情熱、そして脆さ。
そのすべてが、言葉のひとつひとつに滲み出ていて、
まるで本物のカラスがそこにいるような感覚になりました。
特に印象的だったのは、「歌わないカラス」が舞台に立っているということ。
望海風斗さんといえば、その歌声で多くの人を魅了してきたスターですが、
この舞台では言葉と表情だけで観客を引き込んでいたのです。
それは、まるで晩年のカラス自身が「歌えない自分」と向き合いながらも、
その存在感を失わなかった姿と重なりました。
望海さんの演じるカラスは、時に冷たく、時に激しく、そしてどこまでも情熱的。
舞台の上で息づくカラスの姿に、胸がいっぱいになりました。
心に残った言葉たちと、その先に見えたもの
この舞台は、マリア・カラスの人生をなぞる物語であると同時に、
芸術と向き合うことの意味を問いかけるような作品でした。
カラスが生徒に向けて語る言葉の中には、厳しさもあれば深い愛もあります。
彼女の言葉に耳を傾けながら、わたしは「芸術に向き合うとはどういうことなのか」と
いうことを、あらためて考えさせられました。
また、実際の公開レッスンの形式で進んでいくので、
まるで”観客自身もカラスの授業を受けている”ような感覚になります。
オペラに詳しくなくても、カラスの情熱に触れることで、
自然と舞台の世界に引き込まれていくようでした。
受講のおすすめ
『マスタークラス』は、マリア・カラスという偉大な芸術家の人生を通して、
「表現すること」の本質に触れられる舞台でした。
カラスの言葉は、今を生きる私たちにも響いてくるような力を持っています。
そして、望海風斗さんの演技によって、
カラスという人物が目の前に立っているかのような感覚を覚えました。
舞台が終わったあと、静かな余韻が残る。
「芸術とは何か」「人生とは何か」。
そんなことを考えさせられる時間をもたらしてくれる作品でした。