ピアノをやめてしまう人たちへ。続けることの本当の意味

続けることの本当の意味

「昔、ピアノを習っていました。」

 

この言葉を、これまでに何度聞いたことだろう。

 

そしてそのあとに続くのは、たいていこうです。
「もういまは、弾けないんです・・・。」

 

ピアノは、子どもの習いごとランキングで常に上位に入る人気のおけいこごと。

 

けれど、その一方で“やめる率”も同じくらい高い。

 

体操や英語、スイミングなどと比べても、
ピアノは「やめる優先順位が高い習いごと」と言われています。

 

人気があるのに続く人が少ない。

 

この現実に、長年ピアノを教えてきたわたしはずっと胸がざわついてきました。

 

 

ピアノをやめる人が多いのはなぜ?

ピアノは、努力が目に見えにくい習いごと。

 

週に一度のレッスンだけでは上達せず、
家での練習が必須。

 

そしてその練習を支えるのは、
子どもだけでなく親のサポートも欠かせません。

 

「練習しない」「飽きた」「部活が忙しい」「受験がある」・・・。

 

やめる理由はいくつもあるけれど、
根底にあるのは「成果がわかりづらい」ということかもしれません。

 

体操なら技が増える、英語ならコミュニケーションがとれる、
スイミングならタイムが伸びる。

 

目に見える成長がある。

 

けれどピアノは、すぐには結果が出ない。

 

長い時間をかけて少しずつ積み上げるものだからこそ、
「何のためにやっているんだろう?」と立ち止まる瞬間が訪れるのです。

 

 

「昔やっていました」は、続けた人しかわからない“もったいなさ”

「昔やっていました。」

 

いつも思うのは、この言葉の裏には、
“あの頃の音”を手放してしまった人たちの切なさを感じます。

 

久しぶりに鍵盤に触れても、指が思うように動かない。
楽譜も読めない。

 

「あんなに練習したのに、もう弾けないんだ」と気づいた瞬間、
心のどこかがチクリと痛む。

 

ピアノは、ただ鍵盤を押すだけの習い事ではありません。

 

続けていく中で、音に「心」が宿っていく。

 

そして、その感覚を身体で覚えた人だけが味わえる世界があるんです。

 

でもその世界を見ないまま終わってしまう人が、
本当に多い。

 

それが、何よりももったいないのです。

 

 

評価のための練習から、心を感じる時間へ

長く続けている人たちは、
「練習」という言葉の意味が少しずつ変わっていきます。

 

はじめのうちは、「できないところをできるようにする時間」。

 

先生に言われた部分を直したり、
発表会でうまく弾けるように必死に練習したり。

 

ピアノの練習といえば、
「評価されるための努力」になっていることが多いと思います。

 

「心を整える」なんて、そんな余裕はありません。

 

とにかく一音でも間違えたくない、
少しでもよい演奏を聴かせたい・・・
それが正直なところだと思います。

 

でも、そんな練習の中でも、
ふと「なんかうまくいくかも」
「今日は気分がいいな」と感じる瞬間がありませんか?

 

それは、たとえ誰に褒められなくても、
自分の中のリズムが“ピタッ”と合った瞬間。

 

そのとき、わたしたちは無意識のうちに、
少しだけ「心を整えている」のかもしれません。

 

思い通りにならない指や音に向き合ううちに、
呼吸が深くなり、気持ちが静かになる。
ピアノの練習には、そんな“内側を整える力”が潜んでいるのです。

 

 

ピアノ人口を増やしたい、その本当の理由

わたしは長い間、「ピアノ人口を増やしたい」という想いを胸に、
この仕事をしてきました。

 

でもそれは、「習う人を増やしたい」という意味ではありません。

 

“音とつながり続ける人”を増やしたい。
それが、心からの願いです。

 

子どもの頃は、多くの人が「評価」のために頑張ってきました。

 

先生に褒められるため、発表会で上手く弾くため、
コンクールで結果を出すため・・・。
ピアノはいつも「目標」と「評価」の中にありました。

 

けれど大人になるにつれて、
その関係は少しずつ変わっていきます。

 

評価のためではなく、
豊かさを感じるためにピアノに向かうようになる。

 

たとえ誰に聴かせなくても、
自分の手から生まれる音をただ味わう。
その時間が、心を満たしてくれるのです。

 

続けている人たちは、
すでに「上達すること」よりも
「音と共に生きること」を選んでいます。

 

休みの日にピアノを弾く時間をとったり、
好きなピアニストの演奏を聴いて、弾きたい曲を探したり。

 

音楽を楽しむことが、自然と生活の中に溶け込んでいる。

 

なかには、大人になってからグランドピアノを購入し、
「このピアノがあるだけでうれしい」と話す人もいます。

 

ピアノがそばにあるだけで、日々にやさしい彩りが加わる。

 

それは、もはや“習いごと”ではなく、
人生の豊かさそのものです。

 

ピアノ人口を増やすというのは、
そうした“音と共に生きる人”を増やすこと。

 

音を聴き、感じ、弾き、癒される・・・
その循環が広がっていく社会は、
きっと今より少しだけ温かくなる。

 

だからわたしは、
ピアノを「続ける人」を一人でも増やしたい。

 

それが、わたしがこの仕事を続けている理由です。

 

 

続けることの意味

ピアノを続けている人たちは、
それぞれに「ピアノとの関係のかたち」を持っています。

 

子どもの頃に習っていた人は、
先生に褒められるため、発表会で失敗しないため・・・
そんな“評価の世界”の中で頑張ってきた人たち。

 

でも、大人になるとその関係は少しずつ変わります。
ピアノは、「評価されるもの」から「自分の豊かさを感じるもの」へ
静かに姿を変えていくのです。

 

そして、大人になってから初めてピアノを始める人もいます。
その人たちは、「上手になりたい」というよりも、
ピアノに対する“憧れ”を大切にしています。
音に触れるたびに、自分の中の何かが動き出すのを感じながら。

 

どちらのタイプの人も、根っこにあるのは同じです。
「ピアノが好きだから」。

 

「好き」という気持ちは、
技術よりも、努力よりも、ずっと大きな力を持っています。

 

それは人を内側から輝かせ、
どんな小さな一歩にも意味を与えてくれます。

 

うまく弾けなくてもいい。
下手でも関係ない。
たとえ失敗しても、「精一杯やった」と思えたら、
もうその瞬間に、人は前に進んでいる。

 

わたし自身も、そのことを深く教えてくれた生徒さんがいます。
(このときのエピソードは【音楽教室退職の日の記事】に書きました👇)

˙「ヤマハ」という大きな看板を心から卒業すること
(note記事にリンクします)

 

60代後半の生徒さんで、
最初は「私は暗譜ができません」と、きっぱりおっしゃっていた方。
でも、最後のレッスンの日、
その方はなんと暗譜で最後まで弾ききってくださいました。

 

弾き終えたあと、その方は笑顔で
「失敗しちゃったー」と言っていました。

 

でも、その姿がとても晴れやかで、
なぜかわたしのほうが胸がいっぱいになって、
瞳が少し潤んでしまいました。

 

あの瞬間、心の底から思ったのです。
「好きというパワーには、限界がない。」

 

あの日のレッスンは、
完璧な演奏よりもずっと美しく、
“続ける人の強さとやさしさ”を教えてくれた時間でした。

 

 

もう一度、ピアノの前へ

ピアノをやめてしまった人も、どうか思い出してみてください。
あの頃、鍵盤に触れた瞬間のドキドキを。

 

初めて両手で弾けたときの喜びを。
そして、音が自分の中から生まれたときの不思議な感動を。

 

たとえ何年経っても、
ピアノはあなたを責めたりしません。
静かに、変わらない場所で、
またあなたの指先を待っています。

 

「もう弾けないかも」と思っても大丈夫。
ピアノは、いったん離れても、
思い出す力がちゃんと残る楽器です。

 

鍵盤に触れた瞬間、
“あ、懐かしい”という感覚が必ず戻ってきます。

 

ピアノは“続けた人”のためのものではなく、
“もう一度始めたい人”のためのものでもあります。

 

音楽に早いも遅いもありません。
弾きたいと思ったときが、いちばんいいタイミング。
その気持ちが、すでに最初の一歩です。

 

ピアノを弾くことは、
誰かに聴かせるためでも、
成果を出すためでもありません。

 

それは、“自分を生きる”ための行為。
自分の中の静けさや情熱を、音にして確かめる時間です。

 

子どもの頃は、評価のために頑張ってきたかもしれません。
でも大人になった今、ピアノは
「わたしがわたしであることを思い出す場所」に変わります。

 

弾けなくなっても、また始めればいい。
長く離れていても、音はちゃんと待っています。

 

ピアノを続ける人も、これから再び向き合う人も、
どちらも同じ“音の仲間”です。

 

ピアノは、あなたの人生の一部。
そしてその音は、いまも、
あなたの中で静かに鳴り続けています。

 

まとめ

ピアノを弾くことは、
誰かに聴かせるためでも、
成果を出すためでもありません。

 

それは、“自分らしさを生きる”ための行為。
自分の中の静けさや情熱を、音にして確かめる時間です。

 

子どもの頃は、評価のために頑張ってきたかもしれません。
でも大人になった今、ピアノは
「わたしがわたしであることを思い出す場所」に変わります。

 

弾けなくなっても、また始めればいい。
長く離れていても、音はちゃんと待っています。

 

ピアノを続ける人も、これから再び向き合う人も、
どちらも同じ“音の仲間”です。

 

ピアノは、あなたの人生の一部。
そしてその音は、いまも、
あなたの中で静かに鳴り続けています。

 

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