カノンとフーガの違いとは?パッヘルベルとバッハでわかる“追いかける音楽”のしくみ

カノンとフーガの違いとは?パッヘルベルとバッハでわかる“追いかける音楽”のしくみ

「カノン」と「フーガ」。

 

どちらも、ひとつの旋律を別の旋律が追いかけてくるように聞こえる音楽です。

 

パッヘルベルの《カノン》は知っていても、
カノンがどのような仕組みで作られているのかは、
意外と知らない方も多いかもしれません。

 

また、バッハの作品でよく見かける「フーガ」も、
旋律が順番に入ってくるため、カノンとよく似ているように感じられます。

 

では、カノンとフーガは、何が違うのでしょうか。

 

簡単にいうと、

カノンは、同じ旋律を時間差で追いかける音楽
フーガは、同じ主題を受け渡しながら、音楽を広げていく音楽

 

この記事では、パッヘルベル《カノン》とバッハ《小フーガ ト短調》を例に、
“追いかける音楽”の仕組みを見ていきます。

 

 

日常の言葉で考える、カノンとフーガの違い

まずは、旋律を日常の言葉に置きかえて考えてみましょう。

 

たとえば、

コーヒーといえばスタバ

というフレーズがあったとします。

 

カノンでは、最初の人がこのフレーズを言い始めたあと、
少し遅れて二人目も、同じフレーズを言い始めます。

 

さらに少し遅れて、三人目も同じ言葉で追いかけます。

 

最初の人が先へ進んでいる間に、
二人目が最初から話し始め、
さらにそのあとから三人目も入ってくる。

 

それぞれが、

コーヒーといえばスタバ

という同じ台本を、時間をずらして読み始めるようなものです。

 

一方、フーガでも、最初はひとつのフレーズから始まります。

 

一人目が、

コーヒーといえばスタバ

というと、少し遅れて二人目も、

コーヒーといえばスタバ

と、そのフレーズを受け取ります。

 

ここまでは、カノンとよく似ています。

 

けれど、フーガでは、一人目は最初のフレーズを言い終えたあとも黙りません。

 

二人目が「コーヒーといえばスタバ」と言っている間に、一人目は、

フラペチーノもおいしいよね

と、別のフレーズを続けます。

 

つまり、二人目が最初のフレーズを受け取っているあいだにも、
一人目は別の言葉で会話を続けているのです。

 

音楽では、最初に示される大切な旋律を「主題」と呼びます。

 

カノンでは、それぞれの声部が、同じ旋律を時間差で追いかけます。

 

一方、フーガでは、ひとつの声部が主題を演奏しているあいだにも、
ほかの声部は別の旋律を続けています。

 

それぞれが異なる動きをしながら、
音楽全体がひとつの会話のように広がっていきます。

 

カノンは、同じ台本を時間差で読む音楽。
フーガは、同じ合言葉を受け渡しながら、会話を広げていく音楽。

 

もちろん、言葉の比喩と実際の音楽の仕組みは、まったく同じではありません。

 

けれど、カノンとフーガの違いをつかむ入口として考えると、
二つの“追いかけ方”の違いが見えやすくなるのではないでしょうか。

 

 

カノンとは?同じ旋律を時間差で重ねる音楽

カノンでは、ひとつの声部が演奏した旋律を、
別の声部が少し遅れてまねします。

 

最初に旋律を演奏する声部が先を進み、
そのあとを別の声部が同じ旋律で追いかけていきます。

 

身近な例では、「かえるのうた」の輪唱を
思い浮かべるとわかりやすいでしょう。

 

最初のグループが、

「かえるのうたが〜」

と歌い始め、少しあとから別のグループが、同じ旋律を最初から歌います。

 

それぞれが同じ旋律を歌っているのに、
始まる時間が違うため、異なる部分が同時に響きます。

 

カノンのおもしろさは、
ひとつの旋律だけを聴いたときには存在しなかった響きが、
時間をずらして重ねることで生まれるところにあります。

 

カノンにもさまざまな種類がありますが、基本にあるのは、

先に進む旋律と、同じ道をあとからたどる旋律

という関係です。

 

 

パッヘルベル《カノン》では、何が追いかけている?

カノンの代表曲として、もっともよく知られているのが、
ヨハン・パッヘルベルの《カノン》です。

 

正式には《カノンとジーグ ニ長調》という作品のうち、
前半のカノンが広く親しまれています。

 

この曲は、3つのヴァイオリンと、
低音を担当する楽器によって演奏されます。

 

低音では、同じ音の流れが何度も繰り返されています。

 

その安定した土台の上で、
3つのヴァイオリンが順番に旋律を追いかけていきます。

 

ここで少し注意したいのは、
繰り返される低音そのものが「カノン」なのではない、ということです。

 

パッヘルベル《カノン》のカノンになっている部分は、
低音の上で重なっていくヴァイオリンの旋律です。

 

最初のヴァイオリンが演奏した旋律を、
次のヴァイオリンが少し遅れて追いかけます。

 

さらに三つ目のヴァイオリンも加わり、
同じ旋律が時間差で重なっていきます。

 

ただし、わたしたちが普段耳にする《カノン》では、
ひとつひとつの旋律を完全に聴き分けるのは、少し難しいかもしれません。

 

旋律が重なり合うことで、ひとつの大きな響きのように聞こえるからです。

 

この曲を聴くときは、
まず冒頭でヴァイオリンが順番に加わっていくところに耳を傾けてみてください。

 

同じ旋律が少し遅れて入ってくることで、
音楽の層が少しずつ厚くなっていきます。

 

さらに曲が進むにつれて、ヴァイオリンの動きは細かくなり、
音楽は次第に華やかになっていきます。

 

同じ低音が繰り返されているにもかかわらず、
単調に感じられないのは、
その上で重なる旋律の姿が少しずつ変化していくからです。

 

 

フーガとは?主題を受け渡しながら広がる音楽

フーガも、ひとつの旋律を別の声部が追いかけるように始まります。

 

最初に現れる大切な旋律を、フーガでは「主題」と呼びます。

 

ひとつの声部が主題を演奏すると、
少しあとから別の声部が、その主題に応えるように入ってきます。

 

ただし、フーガでは、先に主題を演奏した声部はそこで止まりません。
次の声部が主題を演奏しているあいだにも、別の旋律へ進んでいきます。

 

ここでは、主題を A、高さを変えて現れる応答を A’、
そのあとに続く別の旋律を B・C・D として考えてみましょう。

 

※この図では、わかりやすくするために3声のフーガとして示しています。
実際には、2声・4声、それ以上の声部で書かれるフーガもあります。

 

図の A → A’ → A は、
同じ主題が別の声部へ順番に受け渡されていくことを表しています。

 

二つ目を A’ としたのは、主題がまったく同じ高さではなく、
高さを変えた「応答」として現れることが多いためです。

 

大切なのは、ある声部が主題Aを演奏しているあいだにも、
ほかの声部ではBやCのような別の旋律が進んでいることです。

 

カノンでは、あとから入る声部も、基本的に同じ旋律をたどります。

 

一方、フーガでは、主題を受け渡しながら、
それぞれの声部が別の旋律へ進みます。

 

つまりフーガは、同じ旋律を繰り返す音楽ではなく、
ひとつの主題を材料にして、
複数の声部で音楽を広げていくものと考えるとわかりやすいでしょう。

 

このように、複数の独立した旋律を組み合わせる書き方を
「対位法」といいます。

 

カノンもフーガも対位法によって作られた音楽ですが、
カノンでは同じ旋律を時間差で重ね、
フーガではひとつの主題を受け渡しながら、
それぞれの声部が独立して動いていきます。

 

バッハは、このような対位法の技術を生涯にわたって磨き、
フーガの可能性を深く追究した作曲家です。

 

バッハのフーガを聴くときは、まず冒頭の主題を覚え、
「次はどの声部から聞こえてくるだろう」と探してみると、
複雑に聞こえる音楽の中に道筋が見えてきます。

 

 

バッハ《小フーガ ト短調》で主題を探してみよう

フーガの仕組みを聴いてみる作品としてわかりやすいのが、
ヨハン・セバスティアン・バッハの《小フーガ ト短調》BWV 578です。

 

この曲はオルガンのために書かれた作品で、
冒頭に現れる主題がはっきりしています。

 

まず、ひとつの声部だけで主題が演奏されます。
しばらくすると、別の声部から同じ主題が聞こえてきます。

 

そのとき、最初に主題を演奏した声部は、
すでに別の旋律を演奏しています。

 

さらに別の声部が主題を受け取り、
音楽の中に少しずつ声部が加わっていきます。

 

すべての声部が出そろったあとも、
主題は曲のさまざまな場所に現れます。

 

最初とまったく同じ場所、同じ高さから聞こえるとは限りません。

 

けれど、冒頭の主題を覚えておくと、
「ここにも、さっきの旋律が出てきた」と気づけるようになります。

 

フーガを初めて聴くとき、
すべての声部を一度に聴き分けようとしなくても大丈夫です。

 

まずは冒頭の主題を覚え、
その主題が次にどこから聞こえてくるのかを探してみてください。

 

主題が別の声部へ移るたびに、
音楽を見る場所が変わっていくようなおもしろさがあります。

 

 

まとめ。実際に聴き比べてみよう

カノンとフーガは、どちらも、ひとつの旋律を別の声部が追いかけるように始まる音楽です。

 

けれど、その後の進み方には違いがあります。

 

カノンでは、あとから入る声部も、
先に始まった声部と同じ旋律をたどっていきます。

 

一方、フーガでは、主題を受け取ったあと、
それぞれの声部が別の旋律へ進みます。
複数の声部が独立して動きながら、
ときどき主題が姿を現し、音楽全体をつないでいくのです。

 

カノンは、同じ旋律を時間差で重ねる音楽。
フーガは、ひとつの主題を受け渡しながら、音楽を広げていく音楽。

 

最後に、パッヘルベル《カノン》とバッハ《小フーガ ト短調》を、
実際に聴き比べてみましょう。

 

パッヘルベル《カノン》

ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー室内管弦楽団

ゆったりとしたテンポで、
弦楽器のやわらかな響きを味わえる演奏です。

 

まずは、低音で同じ音の流れが繰り返されていることに耳を傾けてみてください。
その安定した土台の上に、ヴァイオリンの旋律が順番に加わっていきます。

 

バッハ《小フーガ ト短調》BWV 578

ピーター・ハーフォード(オルガン)

こちらは、曲の冒頭に現れる主題を、まず覚えてみましょう。

 

最初の声部が主題を演奏したあと、
別の声部が高さを変えて、その主題を受け取ります。

 

さらに別の声部にも主題が現れますが、
そのあいだ、先に始まった声部は止まらず、それぞれ別の旋律を演奏しています。

 

どちらも“追いかける音楽”ですが、
その追いかけ方の違いに耳を傾けると、
これまでひとつの響きとして聴いていた音楽の中から、
それぞれの旋律の動きが少しずつ見えてくるかもしれません。

 

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