ソナタ形式とは?提示部・展開部・再現部をモーツァルト《ソナタ K.545》でわかりやすく解説
クラシック音楽を学んでいると、よく出てくる言葉に「ソナタ形式」があります。
ソナタ形式とは、簡単にいうと、
提示部、展開部、再現部を中心に、
主題が示され、変化し、もう一度戻ってくる音楽形式です。
……と聞くと、少しむずかしそうに感じるかもしれません。
提示部。
展開部。
再現部。
第1主題。
第2主題。
コーダ。
でも、ソナタ形式は本来、ただ暗記するための用語ではありません。
音楽がどのように始まり、どこへ向かい、どのように戻ってくるのか。
その流れを知るための、大切な手がかりです。
また、ソナタ形式は、単なる「決まった型」ではありません。
最初に出てきた音楽が、別の場所へ行き、揺さぶられ、もう一度戻ってくる。
その流れの中に、音楽のドラマがあります。
この記事では、モーツァルト《ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545》第1楽章を例に、
ソナタ形式をできるだけやさしく見ていきます。
ただし、目的はこの曲を詳しく分析することではありません。
モーツァルトの《K.545》を手がかりにしながら、
ソナタ形式の「提示部・展開部・再現部」という流れを、
実際の音楽に照らし合わせて理解することを目指していきます。
譜例を細かく追うというよりも、
「この曲の中で、音楽はどんな旅をしているのか」
という視点で読んでいただけたらと思います。
ソナタ形式とは?ざっくり言うと「提示・展開・再現」の形
ソナタ形式は、クラシック音楽でよく使われる楽曲形式のひとつです。
モーツァルトやベートーヴェンの
ピアノ・ソナタ、交響曲、室内楽などにも、たびたび登場します。
まず、全体の流れを見てみましょう。
| 部分 | 役割 | イメージ |
|---|---|---|
| 提示部 | 主題が登場する | 登場人物の紹介 |
| 展開部 | 主題が変化・発展する | 物語が動く |
| 再現部 | 主題が戻ってくる | もう一度帰ってくる |
| コーダ | 曲を締めくくる | 余韻・結び |
流れとしては、
提示部 → 展開部 → 再現部 → コーダ
という形です。
もちろん、実際の作品では作曲家によってさまざまな工夫があります。
すべての曲が教科書どおりに進むわけではありません。
けれど、まずはこの大きな流れを知っておくと、
ソナタ形式の曲がぐっと聴きやすくなります。
大切なのは、
「提示部・展開部・再現部という名前を覚えること」
だけではなく、最初に出てきた音楽が、
途中で変化し、最後にもう一度戻ってくる。
その流れを感じることです。
モーツァルト《ピアノ・ソナタ K.545》とは?
今回例として取り上げるのは、
モーツァルトの《ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545》です。
明るく、軽やかで、親しみやすい印象のある作品です。
ピアノを学んでいる方にとっては、
「ソナチネアルバム」などで出会うことも多い曲かもしれません。
この曲は、難解で重厚な作品というより、すっきりと整った美しさがあります。
ハ長調で書かれていることもあり、音の響きはとても明るく、見通しがよい印象です。
初級から中級の学習者にとっても触れやすく、ソナタ形式を学ぶ例としてもよく取り上げられます。
ただし、やさしく聴こえるからといって、単純な曲というわけではありません。
音楽がどのように始まり、どのように動き、どのように帰ってくるのか。
その流れを感じるには、とてもよい作品です。
提示部|ふたつの主題が登場する
ソナタ形式の最初の部分を「提示部」といいます。
提示部は、その名のとおり、これから曲の中で使われる大切な音楽の材料が示される場所です。
物語にたとえるなら、登場人物が紹介される場面です。
ここでは、主にふたつの主題が登場します。
- 第1主題
- 経過句
- 第2主題
- 小結尾
少し専門的に見えるかもしれませんが、
まずは次のように考えるとわかりやすいです。
最初のテーマが出る。
少し音楽が動いて、別の場所へ向かう。
もうひとつのテーマが出る。
提示部全体をまとめる。
この流れです。
第1主題|明るく、まっすぐな始まり
《K.545》第1楽章は、明るく素直な第1主題で始まります。
ハ長調の響きの中で、音楽はとても自然に流れ出します。
飾りすぎず、重すぎず、まっすぐに始まる感じがあります。
この最初の主題は、曲全体の「出発点」です。
ソナタ形式を聴くときは、まずこの最初のテーマを耳に残しておくと、
その後の流れが追いやすくなります。
「この曲は、ここから始まった」
そう感じておくだけでも、
あとで音楽が戻ってきたときに気づきやすくなります。
経過句|次の場所へ向かう音楽
第1主題のあと、音楽はその場にとどまらず、少しずつ次の場所へ向かっていきます。
この部分を「経過句」といいます。
経過句は、第1主題と第2主題をつなぐ橋のような部分です。
音楽が動き出し、少しずつ調が変わっていきます。
《K.545》では、最初のハ長調の世界から、
次の第2主題が現れるト長調の世界へ向かっていきます。
聴いていると、はっきり「ここで理論的に転調しました」と頭で意識しなくても、
音楽が少し前へ進んだ、という感じが感じられると思います。
安定した場所から、少し別の場所へ。
この移動があるからこそ、第2主題が新鮮に聴こえてきます。
第2主題|少し場所を変えて現れる、もうひとつの表情
提示部では、第1主題に続いて第2主題が現れます。
第1主題がハ長調で始まるのに対して、
第2主題は属調であるト長調で現れます。
「属調」という言葉がむずかしく感じる場合は、まずは
最初とは少し違う場所に移った
くらいに考えて大丈夫です。
第2主題は、第1主題とはまた違う表情を持っています。
同じ曲の中にありながら、少し空気が変わる。
けれど、まったく別世界に行ってしまうわけではなく、
自然につながっている。
この「少し場所を変えた感じ」が、提示部の大切な魅力です。
ソナタ形式では、ふたつの主題が対比を作ります。
第1主題と第2主題が、ただ並んでいるのではなく、
調や雰囲気の違いによって、音楽に広がりが生まれます。
提示部は「材料を見せる場所」
提示部は、これから曲の中で使われる大切な材料が並ぶ場所です。
ここで聴いた主題が、あとで形を変えたり、戻ってきたりします。
そのため、ソナタ形式を聴くときは、
提示部をなんとなく聞き流してしまうよりも、
「最初にどんなテーマが出たかな」
「途中でどんなふうに雰囲気が変わったかな」
と軽く意識しておくと、後半がぐっとおもしろくなります。
ソナタ形式は、提示部で終わりではありません。
ここで出会った音楽が、次の展開部で旅に出ます。
展開部|主題が旅をする
提示部のあとに来るのが「展開部」です。
展開部では、提示部で出てきた音楽の材料が、
そのまま繰り返されるのではなく、形を変えて扱われます。
主題の一部分が取り出されたり、
調が変わったり、音の動きが続いていったりします。
ここは、音楽が一度、安定した場所を離れるところです。
提示部では、
「こういう主題があります」
と材料が示されました。
展開部では、その材料が少し揺さぶられます。
提示部で出会った音楽が、そのまま同じ形で戻ってくるのではなく、
少し違う場所へ連れていかれる。
調が変わり、断片が動き、音楽は一度、安定した場所を離れます。
この部分を、あまり難しく考えすぎる必要はありません。
展開部は、音楽の「旅」の部分です。
どこへ向かうのだろう。
どこに落ち着くのだろう。
さっきのテーマは、どんなふうに変わっていくのだろう。
そんなふうに聴いてみると、展開部の役割が感じやすくなります。
《K.545》の展開部は、それほど長く複雑なものではありません。
けれど、短い中にも、音楽の色がふっと変わる大切な瞬間があります。
提示部の終わりでは、第2主題がト長調の明るい響きの中でまとめられていました。
ところが展開部に入ると、その流れを受けながら、音楽はト短調へと移ります。
同じ「ト」を中心にしていても、
長調から短調へ変わるだけで、響きの表情は大きく変わります。
さっきまで明るく整っていた音楽に、少し影が差す。
軽やかだった響きの中に、ほんの少し不安や揺らぎが生まれる。
この短調に変わるところは、《K.545》の展開部でぜひ味わいたい部分です。
ソナタ形式の展開部は、単に「主題を発展させる場所」というだけではありません。
それまで安定していた音楽が、少し別の光の中に置かれる場所でもあります。
長調から短調へ。
明るさから、少し翳り(かげり)のある響きへ。
その変化があるからこそ、再現部で音楽が戻ってきたときに、
ただの繰り返しではない「帰ってきた感じ」が生まれるのです。
再現部|帰ってくるけれど、同じではない
展開部のあとに来るのが「再現部」です。
再現部では、提示部で出てきた主題がもう一度戻ってきます。
「戻ってきた」
ソナタ形式を聴くうえで、この感覚はとても大切です。
展開部で一度、音楽は安定した場所を離れました。
調が動き、主題が変化し、音楽は少し旅をしました。
そのあとに、最初に聴いた主題が戻ってくる。
この瞬間に、聴いている側には安心感が生まれます。
ただし、ここで大切なのは、
再現部は単なる繰り返しではないということです。
提示部と同じ音楽が、ただもう一度出てくるだけではありません。
展開部を通ったあとだからこそ、
同じように聴こえる音楽も、少し違って感じられます。
「戻ってきた」
でも、まったく同じではない。
この感覚が、ソナタ形式の面白さです。
一般的には、再現部では第1主題が主調に戻ってくる、
と説明されることが多いです。
ただし、《K.545》では、再現部の入り方にも少し工夫があり、
第1主題はいったんヘ長調で現れます。
このあたりは、少し専門的な部分です。
最初から細かく覚えようとしなくても大丈夫です。
まずは大きな流れとして、
旅をした音楽が、最後にはふるさとのような場所へ帰ってくる
と感じてみるといいと思います。
再現部では、提示部で別の調に行っていた第2主題も、最終的には主調の中で現れます。
つまり、提示部では少し別の場所にいた音楽が、
再現部では同じ世界の中に収められていくのです。
これによって、曲全体にまとまりが生まれます。
コーダ|音楽を締めくくる場所
再現部のあと、曲の最後をまとめる部分を「コーダ」といいます。
コーダは、音楽の締めくくりです。
大きな物語でいえば、最後の余韻や結びの部分です。
《K.545》では、曲全体が明るく整った印象のまま閉じられていきます。
提示部で主題が示され、展開部で旅をし、再現部で戻ってくる。
その流れを受けて、コーダが曲をきちんと終わりへ導きます。
コーダは、必ずしも長く大きなものとは限りません。
でも、音楽が「終わるべきところへ終わる」ために、大切な役割を持っています。
ソナタ形式を聴くときのポイント
ここまで、ソナタ形式の流れを見てきました。
最後に、実際にソナタ形式の曲を聴くときのポイントをまとめておきます。
1. 最初のテーマを覚えておく
まず大切なのは、最初に出てくるテーマを耳に残しておくことです。
ソナタ形式では、最初に出てきた主題が、
あとで変化したり、戻ってきたりします。
難しく分析しようとしなくても、
「この曲は、こんなふうに始まった」
と覚えておくだけで十分です。
2. 途中で雰囲気が変わるところを感じる
提示部の中でも、展開部の中でも、
音楽の雰囲気が変わる瞬間があります。
明るかった音楽が少し違う方向へ進んだり、
安定していた響きが揺れたりします。
そこに気づくと、ソナタ形式はただの型ではなく、
音楽の動きとして感じられるようになります。
3. 「戻ってきた」瞬間に気づく
ソナタ形式を聴く楽しさのひとつは、再現部で
「あ、戻ってきた」
と感じることです。
最初の主題がもう一度現れたとき、
音楽は出発点を思い出させてくれます。
この「戻ってきた」という感覚がつかめると、
ソナタ形式はぐっと身近になります。
ソナタ形式は、知識として覚えるよりも、
「あ、戻ってきた」
と感じられるようになると、楽しくなります。
4. 「同じ」と「違う」を聴いてみる
再現部で主題が戻ってきたとき、
提示部とまったく同じように聴こえるでしょうか。
同じテーマなのに、少し違って感じる。
戻ってきたのに、最初とはどこか違う。
この「同じ」と「違う」を聴いてみると、
ソナタ形式の奥行きが見えてきます。
音楽は、ただ元に戻るのではありません。
一度旅をしたあとに、もう一度戻ってくるのです。
ロンド形式との違いも少しだけ
ソナタ形式と同じように、「戻ってくる」ことが大切な形式に、
ロンド形式があります。
ロンド形式では、同じ主題が何度も戻ってくるのが特徴です。
たとえば、
A → B → A → C → A
のように、主題Aがくり返し戻ってきます。
一方、ソナタ形式では、ただ主題が何度も戻ってくるというよりも、
提示された主題が、展開部で変化し、再現部で意味を持って戻ってくる
という流れがあります。
ロンド形式が「おなじみの主題が何度も帰ってくる形式」だとすれば、
ソナタ形式は「出発し、旅をし、変化を通って帰ってくる形式」といえるかもしれません。
同じ「戻ってくる」でも、音楽のドラマの作り方が少し違うのです。
※ロンド形式については、別の記事でも詳しくまとめています。

まとめ。ソナタ形式は、音楽の中の小さな物語
ソナタ形式は、最初はむずかしく感じるかもしれません。
提示部。
展開部。
再現部。
第1主題。
第2主題。
コーダ。
主調。
属調。
こうした言葉だけを見ると、どうしても理論の勉強のように見えてしまいます。
でも、実際の音楽の中で聴いてみると、
ソナタ形式はとても自然な流れを持っています。
最初に主題が現れる。
その音楽が別の場所へ向かう。
途中で揺れたり、変化したりする。
そして、もう一度戻ってくる。
これは、音楽の中にある小さな物語のようです。
モーツァルト《ピアノ・ソナタ K.545》第1楽章は、
その流れを感じやすい作品です。
明るく親しみやすい曲ですが、
その中には、ソナタ形式の基本が美しく整理されています。
形式を知ると、音楽の聴き方は少し変わります。
ただ音が流れていくのではなく、
「いま、どこにいるのか」
「どこへ向かっているのか」
「何が戻ってきたのか」
が、少しずつ見えてきます。
音楽の流れを、より深く味わうための手がかりなのだと思います。
実際に聴いてみる。モーツァルト《K.545》第1楽章
ここまで読んだあとに、あらためて第1楽章を聴いてみると、
ソナタ形式の流れが少し見えやすくなるかもしれません。
第1主題が現れるところ。
第2主題へ向かって音楽が動いていくところ。
展開部でト短調の響きに変わるところ。
そして、再現部で音楽が戻ってくるところ。
「いま、どこにいるのかな」と思いながら聴いてみると、
K.545の明るさの中にある、構造の美しさが感じられると思います。
内田光子さんの演奏。
内田光子さんのモーツァルトは、
軽やかさの中に、フレーズや構成の見通しがとてもよく感じられ、
提示部・展開部・再現部の流れを追いやすくなっています。
🎶合わせて読みたい
楽式全体の基本については、こちらの記事でもまとめています。


また、「同じ主題が戻ってくる形式」として、ロンド形式についても解説しています。

