ピアノ講師が親御さんの要望に揺れたとき、自分の指導を責めすぎないために
ピアノを教えていると、親御さんからさまざまな要望をいただくことがあります。
「もっと上の曲に挑戦させたい」
「発表会では、もう少し聴き映えする曲を弾かせたい」
「そろそろペダルを使ってもいいのでは」
「宿題をもっと出してほしい」
どれも、わが子を思う気持ちから出てくる言葉だと思います。
けれど、先生側から見ると、
すぐにその要望に応えられないことがあります。
その子の手の状態や音を聴く力、譜読みやリズムの定着、
練習量、心の負担。
発表会本番までに、安心して仕上げられるかどうか。
そうしたものを見たときに、
「今はまだ早い」「今回は別の曲の方がいい」
「今は進度よりも土台を整えたい」
と感じることがあるからです。
でも、その判断が親御さんにすぐ伝わるとは限りません。
「先生はうちの子を見てくれていない」
「もっとできるはずなのに、挑戦させてくれない」
「要望を聞いてくれない」
そんなふうに受け取られてしまうこともあります。
そして先生は、そこで悩みます。
もっと親御さんの希望に応えるべきだったのか。
説明の仕方が悪かったのか。
自分の指導が間違っていたのか。
今回は、ピアノ講師が親御さんの要望に揺れたとき、
自分の指導を責めすぎないために大切な視点を書いてみたいと思います。
親御さんの要望が、いつも生徒のためになるとは限らない
親御さんの要望を聞くことは、とても大切です。
家庭での様子を知ること。
親御さんの不安や希望を受け止めること。
レッスンの方針を共有すること。
これらは、ピアノ教室を続けていく上で欠かせないことです。
ただ、ここで気をつけたいのは、
親御さんの希望を大切にすることと、
その希望をそのままレッスンの方針にすることは違う、ということです。
親御さんは、わが子に伸びてほしいと思っています。
もっと難しい曲を弾けるようになってほしい。
発表会で堂々と弾いてほしい。
周りの子に遅れないでほしい。
せっかく習っているのだから、成果を感じたい。
その気持ちは自然なものです。
けれど、先生はレッスンの中で、もう少し違うところも見ています。
今の段階で難しい曲に進んだとき、その子が無理なく向き合えるか。
ペダルを入れることで、音を聴く力が育ちにくくならないか。
宿題を増やすことで、ピアノが重たいものにならないか。
先生は、親御さんの希望を否定したいわけではありませんが、
生徒の状態を見たときに、今すぐその要望に応えることが、
その子のためになるとは限らない。
ここに、親御さんと先生のすれ違いが生まれることがあります。
ピアノの成果は、短期間では見えにくい
ピアノの成果は、短期間では見えにくいものです。
もちろん、曲が弾けるようになる。
両手で合わせられるようになる。
発表会で一曲を仕上げる。
そうした目に見える変化もあります。
でも、本当の意味での力は、もっと見えにくいところで育っています。
音を聴く耳。指先の感覚。楽譜を読む力。
リズムを感じる力。弾けないところに向き合う粘り強さ。
一曲を丁寧に仕上げる力。毎日少しずつ練習する習慣。
こうしたものは、一回のレッスンで急に形になるものではありません。
毎週のレッスンの中で、少しずつ積み重なっていく。
家での練習の中で、うまくいったり、
戻ったり、また気づいたりしながら育っていく。
そして、あるときふと、「前より音を聴けるようになった」
「譜読みが楽になってきた」「弾けないところで投げ出さなくなった」と見えてくる。
ピアノの成果は、コツコツと積み重ねた先に、
あとからかたちになってくるものです。
先生自身は、それを身体で知っています。
自分が子どもの頃からピアノを習い、
長い時間をかけて音楽を身につけてきたからこそ、
結果がすぐには出ないことを知っています。
だからこそ、先生は「今すぐ華やかに聴こえること」だけでは判断できません。
親御さんが求めているのは、今すぐ見える成果かもしれません。
でも先生が見ているのは、今はまだ形になっていない、その子の中で育ち始めている力です。
親御さんが求める“わかりやすい成果”と、先生が見ているもの
親御さんにとって、わかりやすい成果があります。
難しい曲に進んだ。
ペダルを使って華やかに聴こえるようになった。
発表会で聴き映えする曲を弾いた。
教材がどんどん進んでいる。
宿題がたくさん出ている。
こうしたものは、外から見てもわかりやすいです。
一方で、先生が見ているものは、もう少し細かく、時間のかかるものです。
その子が、自分の音を聴こうとしているか。
譜読みを人任せにせず、自分で読もうとしているか。
弾けないところに出会ったとき、すぐにあきらめずに向き合えるか。
発表会の曲を、本番まで安心して仕上げられるか。
親御さんが見ているものと、先生が見ているもの。
どちらも、その子を思う気持ちから出ていることがあります。
でも、見ている場所が違うのです。
だから、親御さんの希望に応えない先生が、
冷たい先生というわけではありません。
むしろ、その子の状態を見ているからこそ、
すぐに応えない判断をしている場合があります。
「今はペダルを入れない」
「今回は発表会で無理な背伸びをしない」
「もう少し土台を整えてから、上の曲へ進む」
「宿題を増やすより、今は一つひとつを丁寧に弾けるようにする」
こうした判断の奥には、先生なりの理由があります。
要望に応えられないとき、先生が自分を責めすぎないために
もちろん、先生側にもできることはあります。
なぜ今はペダルを使わないのか。
なぜその発表会の曲は背伸びが大きいと感じるのか。
なぜ進度を急がず、土台を整えたいのか。
なぜ宿題の量を増やすより、今は丁寧に取り組むことを大切にしたいのか。
そうした理由は、できるだけ親御さんに伝える必要があります。
先生の頭の中でどれだけ考えていても、
それを言葉にしなければ、親御さんには伝わりにくいからです。
ただ、丁寧に説明しても、理解されないことはあります。
親御さんが求めているものが、今すぐ見える成果である場合。
周りとの比較が強くなっている場合。
わが子にこうあってほしい、という思いが強い場合。
先生の説明が、すぐには届かないこともあります。
「もっと説明すればよかったのかな」
「私の伝え方が悪かったのかな」
「やっぱり要望に応えるべきだったのかな」
「辞められてしまったということは、私が間違っていたのかな」
そんなふうに、自分の指導まで疑ってしまうことがあります。
でも、理解されなかったことと、
先生の指導が間違っていたことは同じではありません。
辞められてしまったことと、
先生が生徒のことを大切にしていなかったことも、同じではありません。
先生が生徒の状態を見て、
誠実に考えて判断したのなら、その思いまで否定しなくていいのです。
先生としての判断を、言葉にして伝えることも大切
親御さんに理解していただくためには、
先生としての判断を言葉にすることも大切です。
たとえば、ペダルについて聞かれたときには、
「ペダルを使うと響きは華やかになりますが、
今はまず、自分の指で出している音をよく聴くことを
大切にしたいと思っています」と伝えることができます。
発表会の曲が少し背伸びしすぎると感じるときには、
「発表会では、弾けるかどうかだけでなく、
本番までに安心して仕上げられるかも大切にしたいと思っています」と伝えることもできます。
もっと上の曲に進めたいと言われたときには、
「今は急いで曲のレベルを上げるより、
譜読みやリズム、音を聴く力をしっかり育てたい時期だと感じています」という言い方もできます。
大切なのは、親御さんの要望をただ断ることではありません。
その要望を受け止めた上で、
先生が何を見て判断しているのかを言葉にすることです。
「できません」
「まだ無理です」
「それは早いです」
だけでは、親御さんには先生の意図が伝わりにくいことがあります。
でも、「今は、この力を育てたい」
「この子の状態を見ると、こちらの進め方が合っている」
「本番で安心して弾けることも大切にしたい」
と伝えることで、先生の判断の奥にあるものが少し見えやすくなります。
もちろん、それでもすべての親御さんに理解していただけるわけではありません。
それでも、先生が自分の判断を言葉にしておくことは、
先生自身の軸を守ることにもつながります。
詳しくはnote有料記事で書いています
今回の記事では、ピアノ講師が親御さんの要望に揺れたとき、
自分の指導を責めすぎないための考え方を整理しました。
noteでは、『生徒の一番の味方でいるという選択。』という有料記事として、さらに詳しく書いています。
この記事は、有料マガジン
「One Heart流|教える人の“整える”仕事術」の最終回として書いたものです。
この記事では、今回の内容をさらに深めて、
- ペダルを使わない判断をどう伝えるか
- 発表会の曲が背伸びしすぎると感じたとき、どう説明するか
- 進度や宿題をもっと増やしてほしいと言われたときの伝え方
- 比較や競争の空気を感じたときの対応
- 丁寧に説明しても理解されなかったとき、先生が自分を責めすぎないための考え方
- 親御さんにとって都合のいい先生になりすぎず、生徒の未来を見る先生でいるための軸
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保護者対応で使いやすい具体的な文例も入れています。
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LINE・振替・月謝・要望の境界線など、
教える人が自分をすり減らさずに続けていくためのテーマを扱っています。
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親御さんの要望に応えきれず、自分の指導を責めたことがある先生へ。
先生が見ていたものは、その場の満足だけではなかったはずです。
生徒の未来を見て判断したことまで、どうか責めすぎないでください。
