ヤマハ音楽教室講師歴25年以上の経験を持つピアノ講師が悩みに寄り添います。
8〜9歳以降からのピアノ学習は遅い?
「ピアノを何歳から習わせるのがベスト?」
これは、多くの親御さんが抱える悩みの一つです。
特に「8〜9歳から始めるのは遅いのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。
実はこの年齢からのスタートでも十分に上達できますし、
むしろこの時期ならではのメリットもたくさんあります。
今回は、8〜9歳からピアノを始めるメリットとデメリット、
そして幼少期からスタートした子どもとの違いについて詳しく解説します。
また、10代以降についてのピアノ学習についてもお伝えしたいと思います。
8〜9歳からピアノを始めるメリット
1. 理解力があり、学習効率が高い
8〜9歳になると、楽譜のしくみや音符のルールを論理的に理解できるようになります。
先生の説明をしっかり聞いて実践する力も備わっているため、
スムーズに学習を進めることができます。
2. 自主的に練習ができる
この年齢になると、ある程度の自己管理能力が身についています。
そのため、「ピアノの練習をしなさい」と親が強く促さなくても、
自主的に練習できる子が増えてきます。
3. 指の発達が進んでいる
5〜6歳の頃に比べて手の力がしっかりしており、鍵盤を押さえやすくなっています。
そのため、初期の段階から無理なく演奏でき、手の負担も少なくなります。
4. 音楽的な好みができている
この年齢になると、子ども自身が「この曲が好き!」「こんな曲を弾きたい!」といった意欲を持ちやすくなります。
好きな曲があることで、練習のモチベーションも高まりやすくなります。
8〜9歳からピアノを始めるデメリット
1. 幼児期に比べて耳の発達が落ち着いている
3〜6歳頃は「絶対音感」を育てるのに適した時期と言われています。
(絶対音感が必ず必要、大切ということもありません)
しかし、8〜9歳でも相対音感を鍛えることは可能で、遅すぎるということはありません。
2. 幼少期から始めた子と比べると経験差がある
例えば、5歳から始めた子は8歳の時点ですでに3年の経験を積んでいます。
一方で、8歳から始める場合はゼロからのスタートとなるため、
技術的な習得には少し時間がかかることもあります。
3. 他の習い事や学校生活との両立が必要
小学校中学年になると、勉強や習い事などでスケジュールが忙しくなりがちです。
そのため、ピアノの練習時間をどう確保するかが課題になることがあります。
幼少期のスタートと8〜9歳スタートの違い
幼少期に習い始めた子どもと、8〜9歳を過ぎてから習う子の違いについて、
表にまとめてみました。
3〜6歳からスタート | 8〜9歳からスタート | |
---|---|---|
理解力 | 直感的に学ぶ | 理論的に理解する |
指の発達 | 小さい手で工夫が必要 | 指がしっかりしていて弾きやすい |
楽譜の読解 | 音で覚えることが多い | 理解して進める |
練習の取り組み方 | 親のサポートが必要 | 自主的に練習できる |
幼少期にスタートした子どもは、直感的に音を覚えていくことが多く、
耳の発達が有利に働く場合があります。
一方で、8〜9歳から始める子どもは理解力があり、理論的に音楽を学べるため、
効率的に上達することも可能になります。
10代以降のピアノ学習の特徴
10代以降は、身体的にも精神的にも成熟しているため、学習方法が変わります。
特に、
・手が大きくなっているため、オクターブや広い音域を押さえやすい
・自分の意思で学ぶため、モチベーションが高い
・音楽的な表現をより深く理解できる
・理論的に理解しながら進めるため、効率的に学習できる
というメリットがあります。
一方で、
・指の柔軟性が低く、幼少期からの学習者ほど速い指の動きを習得しにくい
・受験・仕事など、生活スタイルによって練習時間の確保が難しい
・幼少期からの学習者と比べると”出遅れた”と感じることがある
という課題もあります。
幼少期から始めた人と10代以降から始めた人との違い
① 技術的な違い
- 幼少期から習った人は、手の柔軟性が高く、指の動きが滑らかで速いパッセージを難なくこなせる傾向があります。
- 10代以降から始める人は、指の柔軟性が低いため、速いパッセージやトリル(細かい音の連続)を弾くのに時間がかかることがある。
ただし、指の独立した動きを鍛えるための練習をすれば、十分に克服できます。
② 認識力・理解力の違い
- 幼少期の子どもは「感覚的」に音を捉えることが多く、楽譜を読むよりも耳を頼りにする傾向があります。
- 一方、10代以降は楽譜の構造や音楽理論を理解しながら学べるため、効率的な練習が可能です。
③ 演奏の表現力
- 幼少期の子どもは、音楽の感情表現を自然に身につけることが難しいことがあります。
- しかし、10代以降は、人生経験が豊かになるため、表現力を重視した演奏ができるという強みがあります。
例えば、ショパンのノクターンのような感情豊かな曲は、技術的には簡単でも、人生経験を積んだ人の方が表現力を込めやすいと言えます。
10代以降から始めることのメリット
・自主的な学習ができる
10代以降は「なぜピアノを弾きたいのか」という明確な動機があるため、練習に対する意欲が高く、効率よく上達できます。
・好きな曲をモチベーションにできる
子どものレッスンでは基本的に基礎から学ぶことが多いですが、大人や10代の学習者は、「好きな曲を弾きたい!」という明確な目標を持ちやすいため、練習のモチベーションを維持しやすいです。
たとえば、アニメや映画の音楽、J-POP、クラシックの名曲など、自分の興味のあるジャンルを選べます。
・効率的な練習ができる
10代以降の学習者は、理論的に物事を考えられるため、**「どの練習が効果的か」**を理解しやすいです。
例えば、スケール練習や指のトレーニングを計画的に行い、短期間で一定レベルに到達することが可能です。
・表現力が豊か
10代以降は、人生経験や感情が成熟しているため、演奏に深みが出やすいです。
単なる音の連なりではなく、「歌うように弾く」「物語を表現する」という意識が持てるため、より感情豊かな演奏ができるようになります。
10代以降から始める場合のデメリット
・指の柔軟性が低い
幼少期からの学習者と比べて、指の動きが硬くなりやすいため、脱力やスムーズな運指を意識する必要があります。
ただし、適切な練習を行えば、ある程度の柔軟性を取り戻すことは可能です。
・時間の確保が難しい
10代は受験勉強や部活動、大人は仕事など、ピアノにかけられる時間が限られることが多いです。
そのため、短時間で効果的に練習できるよう、計画的な練習法を取り入れることが大切です。
・「幼少期からやっていれば…」という焦りを感じやすい
「もっと早く始めていれば上手になれたのに」と感じることがあるかもしれません。
しかし、ピアノは年齢に関係なく上達できる楽器です。大切なのは「今、できることを続けること」です。
ある程度年齢が上の子ども(大人)にとって感覚的に音楽を捉えることは難しい?
年齢が上がると、「感覚で捉える」ことが難しくなる傾向はあります。
特に、10代以降(大人を含む)は、言語的・論理的な思考が発達しているため、
どうしても「理論から理解しようとする」ことが多いです。
例えば、
🎵 幼児は「このコードは明るい」「このメロディは悲しい」と直感的に感じる。
🎵 大人は「このコードはメジャーだから明るく感じる」「短調だから悲しく聞こえる」と
理論的に考える。
このように、年齢が上がると、音楽を体験ではなく「知識」として捉えようとすることが増えるため、感覚的に学ぶことが少し難しくなるのです。
10代以降が「感覚的に」音楽を捉えるには?
しかし、10代以降でも「感覚的に音楽を捉える力」を育てることは可能です。
ただし、幼児とは異なり、意図的にその力を鍛える必要があります。
体を使って音楽を感じる
- リズムを手や体で感じる(クラッピング、足踏みなど)
- メロディを口ずさむ(歌う)
- 曲の雰囲気に合わせて動いてみる(例えばワルツなら揺れるように、行進曲ならしっかり歩くように)
こうすることで、「理論で理解する前に、身体で感じる」経験ができます。
耳を鍛える(ソルフェージュ)
- 「この音はどんな気持ちに聞こえる?」と考える
- メロディを聴いて、「次にどんな音が来そうか」予測する
- コード進行を聴いて、明るい/暗い、落ち着く/不安定などを感じ取る
こういった練習をすると、音楽を「頭ではなく感覚で」受け取る習慣がつきます。
すぐに楽譜を見ず、まず音で捉える
- 耳コピに挑戦する(短いフレーズからでもOK)
- 楽譜を見る前に一度聴いて「どんな曲か」イメージする
- 楽譜を弾く前に、鼻歌で歌ってみる
これを習慣にすると、「楽譜を読む前に音楽を感じる」ことができるようになります。
「感覚で弾く」ことが苦手な大人の特徴
大人になると、
・「楽譜通りに弾かなきゃいけない」
・「間違えたらダメ」
・「理論が分からないと不安」
と思い込んでしまうことがあります。
しかし、これは「頭で理解しようとしすぎている」ことが原因。
子どもは「とりあえず弾いてみる」ことができるけれど、
大人は「正しく弾くこと」を意識しすぎてしまうため、
「感覚的に楽しむ」ことが苦手になってしまうのです。
まとめ。ピアノを始めるのに遅すぎることはない
8〜9歳からピアノを始めることには多くのメリットがあり、決して遅すぎるということはありません。
幼少期は「音楽を言葉のように覚える時期」なので、直感的に学びやすい。
また10代以降(大人)は、「論理的に考えようとする傾向が強い」ので、感覚で捉えるのが難しくなります。
それでも、意識的に”身体を使う”、”耳を鍛える”、”楽譜を見ずに音を感じる”ことで、感覚的な理解を深めることができます。
大切なのは「ピアノを楽しめること」。
「早く始めなければ…」と焦るよりも、その子に合ったタイミングでスタートし、ピアノの楽しさを味わうことが何よりも重要です。
ピアノは何歳からでも学ぶことができ、音楽のある生活は一生の財産になります。
もしお子さんがピアノに興味を持ち始めたなら、その気持ちを大切にしてあげてくださいね。