絶対音感と相対音感の違い。それぞれが得意なこと

絶対音感と相対音感の違い。それぞれ何が得意?

「絶対音感」と「相対音感」。

 

どちらも、音を聴き取る力について使われる言葉ですが、
「何が違うの?」
「絶対音感がある方が、音楽には有利なの?」
「相対音感があると、何ができるの?」
と聞かれると、意外と違いがわかりにくいかもしれません。

 

わたしは子どもの頃から絶対音感があり、
音を聴けば、それが何の音なのかはだいたいすぐにわかります。

 

けれど、長くピアノ講師をしてきた中で、
「これはわたしにはなかなかできないな」と思ったことがあります。

 

それが、移調でした。

 

ヤマハで育った先生たちの中には、
ある調で書かれた曲を、その場ですぐに別の調へ移して弾ける先生がいました。

 

楽譜を見ながら、ピアノの上でスッと別の調へ移してしまう。

 

固定ドで音を覚えてきたわたしには、
それがとても不思議で、「どうしてそんなに簡単にできるんだろう?」
と思ったものです。

 

一方で、考えてみればわたしにも、ずっと当たり前にやってきたことがあります。

 

生徒がピアノを弾いているとき、楽譜を見ていなくても、
「あ、今の音違う」とわかること。

 

しかも、「何かが違う」というだけでなく、
「ソではなくて、ラを弾いた」というところまでわかります。

 

もしかすると、これは相対音感を得意とする人から見ると、
わたしが移調を見て驚いたのと同じように、「どうしてわかるの?」
と思うことなのかもしれません。

 

絶対音感と相対音感。

 

どちらかが優れているというより、
音の捉え方、そして得意とすることが違うのです。

 

 

絶対音感と相対音感は、何が違う?

まず、言葉の意味を簡単に整理しておきましょう。

 

絶対音感とは

絶対音感とは、基準になる音を聞かなくても、
鳴っている音の高さを音名で判断したり、
指定された音を基準音なしで出したりできる能力のことです。

 

たとえば、ピアノで突然ひとつの音を鳴らされたときに、
「ファ♯」と判断できる。

 

ほかの音と比べなくても、その音そのものを認識できます。
絶対音感は一般に、このように
「外部の基準音なしで音高を同定・再現できる能力」と定義されています。

 

絶対音感については、以前の記事でも、
子どもの音楽学習で役立つ場面や、絶対音感を持つことで感じる独特の感覚について書いています。

 

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相対音感とは

一方、相対音感は、音と音との関係を捉える力です。

 

ある音を基準にして、「次の音は、ここから長3度上」とか、
「この二つの音は完全5度の関係」というように、
音の高さそのものではなく、音と音との距離や関係を捉えます。

 

わたしたちは、同じメロディーが別の高さから始まっても、
多くの場合「同じ曲」と認識できます。

 

これは、一音一音の絶対的な高さではなく、
音同士の関係が保たれているからです。

 

実際、人が旋律を記憶するときには、
絶対的な音高よりも相対的な音高関係を使うことが多いことが知られています。

 

ひと言でいうと、「音そのもの」か「音の関係」か

かなりシンプルに言えば、絶対音感は「この音は何?」に強い。

 

そして、相対音感は「この音は、ほかの音とどういう関係?」に強い。
という違いがあります。

 

たとえば、「ド・ド・ソ・ソ……」というメロディーがあったとします。

 

絶対的な音の高さで捉えるなら、「ド、ド、ソ、ソ」という音そのものを認識します。

 

一方、同じ音程関係のまま、曲全体を一音高くすると、
「レ、レ、ラ、ラ……」になります。

 

絶対音感の側から見ると、
「ドだった音がレになった」「ソだった音がラになった」という変化があります。

 

でも相対的な関係を見ると、二つの旋律の構造は同じです。

 

この違いを知ると、絶対音感と相対音感が、
それぞれどんな場面を得意としているのかが見えてきます。

 

絶対音感が得意とすること

 

鳴った音が何の音なのか、すぐにわかる

絶対音感のいちばんわかりやすい特徴は、
基準音がなくても音名を判断できることです。

 

ピアノで鳴った音だけでなく、
人によってはチャイムや機械音など、日常の音にも音名を感じることがあります。

 

わたし自身も、音を聞いたときに
「まず基準になる音を探して……」ということはしていません。

 

音が鳴れば、音名がそのままついてくるような感覚です。

 

楽譜を見ていなくても、間違った音に気づくことがある

これは、長くピアノを教えてきて、かなり役立ったことのひとつです。

 

レッスン中は、ずっと楽譜だけを見ているわけではありません。

 

生徒の手を見たり、身体の使い方を見たり、
楽譜に何かを書き込んだりすることもあります。

 

そんなときでも、「あ、今の音違うよ」と気づくことがあります。

 

さらに、「今、シ♭ではなくシを弾いた」というように、
どの音へ間違えたのかまでわかる。

 

わたしにとってはあまりにも当たり前だったので、
長い間、それを「絶対音感があることの便利さ」とはあまり考えていませんでした。

 

原曲の高さが記憶に残りやすい

いつも聞いている曲が、原曲とは違うキーで演奏されると、
「いつもと違う」と感じることがあります。

 

わたし自身、カラオケでキーを半音上げたり下げたりしただけでも、
かなり違和感があります。

 

カバー曲で原曲とは別のキーになっていたり、
同じ歌手が年月を経て以前より低いキーで歌っていたりすると、
「あ、前とは調が違う」とすぐ気づくこともあります。

 

この感覚については、以前の記事でも詳しく書きました。

 

相対音感が得意とすること

一方で、相対音感には、絶対音感とはまた違った便利さがあります。

 

音と音との距離を捉えやすい

相対音感では、一つひとつの音名そのものより、
「基準の音から、どのくらい離れているのか」を捉えます。

 

旋律や和音は、一音だけでできているわけではありません。

 

音と音との距離、和音の中での役割、調の中での位置。
音楽は、たくさんの「関係」によって成り立っています。

 

その関係を見るときに、相対音感はとても役立ちます。

 

移調するときにも役立つ

わたしが特に「すごい」と感じたのが、この部分でした。

 

ある曲を別の調へ移す「移調」では、音そのものを一つずつ置き換えるより、「主音から何度上なのか」「この和音は、この調の中でどんな役割なのか」という関係で捉えられると、音を移しやすくなります。

 

もちろん、相対音感があれば誰でも簡単に移調できる、というわけではありません。

 

楽譜を読む力や、調性・和声についての理解、実際の訓練も必要です。

 

ただ、音を「ドはド」と固定された高さとしてだけ捉えるのではなく、
調の中での位置関係として捉えられることは、移調との相性がいいのです。

 

調が変わっても、「同じ曲」として捉えやすい

たとえば、ある歌を自分の声に合わせて二音低く歌ったとしても、
メロディーそのものが別の曲になるわけではありません。

 

音と音との関係が同じなら、わたしたちは同じ旋律として認識できます。

 

相対音感は、こうした「高さが変わっても変わらないもの」を捉える力ともいえます。

 

絶対音感があれば、相対音感はいらない?

では、絶対音感があれば、相対音感は必要ないのでしょうか。

 

そんなことはありません。

 

絶対音感と相対音感は、
「どちらか一方を持っていればいい」という関係ではないからです。

 

絶対音感がある人でも、音程や和声、
調性を理解するときには、音同士の関係を聴いています。

 

反対に、相対音感に優れている人でも、
必ず基準音なしで音名を当てられるわけではありません。

 

また研究では、絶対音感を持つ人が、
移調された旋律を判断するときに、
絶対的な音高情報の影響を受ける場合があることも報告されています。

 

一方、最近の研究では、絶対音感の強い人でも、
調や課題に応じて絶対的な聴き方と
相対的な聴き方を使い分ける可能性が示されています。

 

つまり、「絶対音感がある人は相対音感が弱い」
と単純に分けられるものでもありません。

 

音楽の中では、わたしたちはいろいろな聴き方を使っているのだと思います。

 

絶対音感と相対音感、どちらがいいの?

ここまで読むと、「では結局、絶対音感と相対音感、どちらがあった方がいいの?」
と思われるかもしれません。

 

これは、どちらかがいいか、という話ではないと思っています。

 

わたしが長くピアノに携わってきた中では、
「絶対音感を持っていた方がいい」というイメージがある人がとても多いように感じてきました。

 

たしかに、絶対音感はピアノを学ぶ上で役立つ能力です。

 

鳴った音がすぐにわかったり、楽譜をみていなくても間違った音に気づけたり、耳で聞いた音を再現しやすかったり。

 

わたし自身も、絶対音感があることで助けられてきた場面はたくさんあります。

 

でも一方で、「絶対音感がある=音楽をするうえで、より優れている」ということではないと思うのです。

 

絶対音感には絶対音感の得意なことがあり、
相対音感には相対音感の得意なことがあります。

 

そして、絶対音感があるからこそ感じる不便さや、
音の高さに敏感だからこそのしんどさもあります。

 

わたし自身、その感覚については別の記事でも書いてきました。

 

だからこそ、子どもの音楽教育でも、
「絶対音感をつけること」そのものを、
あまり大きな目標にしすぎなくてもいいのではないかと感じています。

 

もちろん、絶対音感を育てることを否定したいわけではありません。

 

ただ、音楽で使う「耳」は、それだけではありません。

 

音と音との距離を感じること。
調の中での音の役割を感じること。
和音の響きを聴くこと。
旋律の流れを感じること。

 

そうした力も、音楽を演奏したり理解したりするうえでは、とても大切です。

 

「絶対音感があるか、ないか」だけで、
その人の音楽的な力を測ることはできません。

 

大切なのは、どちらか一つを「正解」とすることではなく、
いろいろな角度から音を聴ける耳を育てていくこと。

 

わたしは、そんなふうに考えています。

 

自分にとって当たり前の力は、意外と見えにくい

わたしは長い間、移調をすぐにできる先生たちを見て、
「すごいなあ」と思っていました。

 

自分には簡単にできないことだったからです。

 

でも今回、あらためて絶対音感と相対音感について考えてみると、
わたしがレッスン中に当たり前のように、
「今、違う音弾いたよ」と楽譜を見ずに言っていたことも、別の人から見れば、
「どうしてわかるの?」と思うことなのかもしれません。

 

人は、自分にないものはよく見えるけれど、
自分が当たり前に使っている力には、意外と気づきにくいものです。

 

絶対音感と相対音感も、
そんなふうに見てみるとおもしろいのかもしれません。

 

どちらが上なのかではなく、自分は、音をどんなふうに捉えているのか。

 

そこを知ると、自分の得意なことも、
これから育てたい力も、少し見えやすくなるのではないでしょうか。

 

そして次に出てくるのが、
「では、子どもがピアノを習うなら、絶対音感と相対音感、どちらを育てたらいいの?」
という疑問です。

 

これについては、また別の記事で考えてみたいと思います。

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