ピアノが“滞る”とき、練習の中で起きている5つのこと

「練習してるのにうまくならない」この共通点5つ

「毎日ちゃんと練習しているのに、なぜか伸びない」
そんな状態を、これまで何度も見てきました。

 

時間はかけている。
回数もこなしている。
本人なりに、がんばっている。

 

それなのに、
あるところから上達が止まってしまう。

 

このとき、多くの人は
「練習量が足りないのかな」
「才能の問題なのかな」
と考えがちです。

 

けれど、現場で見てきた限り、
原因が“量”にあるケースは、実はそれほど多くありません。

 

止まっているのは、指ではなく、学び方。

 

ピアノは、学校の勉強と同じやり方で進めると、
思わぬところでズレが生まれやすい分野です。

 

そのズレが積み重なると、
「がんばっているのに、伸びない」
そんな停滞が起きてしまいます。

 

 

弾くだけで終わっている(反復=思考停止)

レッスンの現場で、いちばん多く見てきたのが、
音を「弾き流している」ような練習です。

 

機械のように、ただ音を並べていく。
止まらずに、最後まで弾く。
時間だけは、しっかりかけている。

 

「今日は何回弾いた?」
「何分練習した?」

 

こうした問いが練習の基準になると、
練習はいつの間にか、
“弾いたかどうか”を確認するものになっていきます。

 

指は動いている。
楽譜も進んでいる。

 

けれど実際には、

  • 音をどう聴いていたか
  • 何を感じていたか
  • どこに意識が向いていたか

こうした部分が、すっぽり抜け落ちてしまうことがあります。

 

本人に悪気はありません。
むしろ「ちゃんと弾こう」「間違えないようにしよう」と、
とても真面目に取り組んでいる。

 

だからこそ、
考えるより、なぞる。
感じるより、こなす。

 

そんな練習になりやすいのです。

 

反復そのものが悪いわけではありません。
繰り返しは、ピアノの練習に欠かせないものです。

 

ただ、考えない反復が続くと、
練習は少しずつ「作業」になっていきます。

 

とくに完璧主義タイプの子ほど、
失敗しない反復、
止まらずに終える反復を選びがちです。

 

安心感はあります。
でもその一方で、
音が身体を通らないまま、
時間だけが過ぎていく。

 

結果として、
「たくさん練習したはずなのに、弾けていない」
そんな感覚が残ってしまうことがあります。

 

 

“ミスを直す”ことが目的になっている

次に多かったのが、
練習の目的が「ミスをなくすこと」だけになってしまっている状態です。

 

レッスンでよくあるのは、
「ここ、間違えたよね」
「さっき注意されたところ、もう一回やっておこう」

 

そんなふうに、
練習が“修正ポイントの消去作業”になっていくケースです。

 

間違えないように。
止まらないように。
注意されたところを、きれいに消すように。

 

一見、とても前向きで、
「ちゃんと練習している」姿にも見えます。

 

もちろん、ミスに気づくこと自体は大切です。
直そうとする姿勢があるからこそ、上達もあります。

 

ただ、いつの間にか
ミスを直すことそのものがゴールになってしまうと、
音楽は少しずつ「修正作業」に変わっていきます。

  • どんな音が鳴っているか
  • どんな響きが残っているか
  • 弾いていて、何を感じているか

そうした部分よりも、
「合っているか・合っていないか」だけが基準になる。

 

結果として、
「ちゃんと弾いているのに、音が育たない」
「間違えていないのに、表情が出てこない」

そんな停滞が起きやすくなります。

 

ミスばかりを追いかける練習は、
気づかないうちに、音楽そのものから目を離してしまうことがあるのです。

 

 

「音を聴く」より「鍵盤を追う」練習になっている

もうひとつ、現場でよく見てきたのが、
楽譜を見て弾いているけれど、音楽が平面のままになっている状態です。

 

目で楽譜を追い、書かれている音を、
そのまま鍵盤に置き換えていく。

 

とても真面目で、「正しい」練習に見えます。

 

けれどこのとき、演奏はどうしても
楽譜上の音楽=平面の音楽に留まりがちです。

  • 音と音のあいだの空気
  • 響きの広がり
  • 重なりや奥行き

そうしたものを感じる前に、
次の音、次の小節へと進んでしまう。

 

結果として、音楽が「線」や「点」のまま流れていき、
立体にならない。

 

横から聴いていると、音は並んでいるけれど、
どこか薄く、どこか平らに感じられる演奏になります。

 

これは、目で見た情報が主役になりすぎて、
耳が後回しになっている状態です。

 

楽譜は、音楽そのものではありません。
あくまで、音楽を写した“設計図”のようなもの。

 

設計図だけを見て弾いていると、
音楽はいつまでも紙の上にとどまります。

 

逆に、耳が主役になった瞬間、
音楽は立体になり始めます。

 

音の重なりが感じられ、響きの方向が見え、
時間の流れに奥行きが生まれる。

 

そのとき初めて、「弾いている」というより
「音楽の中に入っている」
そんな感覚が育っていきます。

 

 

“できない”を隠すために、「わかった」と言ってしまう

レッスンの中で、
こちらが説明をすると、すぐに返ってくる。

 

「うん」
「わかった」
「大丈夫」

 

返事だけを見ると、
とても理解が早いように感じます。

 

でも、いざ弾いてもらうと、
音はさっきとほとんど変わらない。
説明が、演奏に反映されていない。

 

そんな場面を、何度も見てきました。

 

このタイプの子は、
本当はわかっていないのではなく、
「わからない」と言えなくなっていることが多い。

  • もう一度聞いたら、迷惑かな
  • 理解が遅いと思われたくない
  • できない自分を見せたくない

そんな気持ちが先に立ち、
反射的に「わかった」と答えてしまう。

 

その結果、
練習は少しずつ「わからないところを隠す時間」になっていきます。

 

止まらない。
聞き返さない。
できるふりをして進む。

 

一見、スムーズですが、
実際には中身が追いついていない。

 

当然、できることだけを繰り返す練習になり、
新しいことには踏み出せません。

 

でも本来、わからない状態こそが、成長の入口です。

 

立ち止まり、「ここがわからない」と言葉にし、
もう一度向き合う。

 

そのプロセスを飛ばしてしまうと、
努力しているのに、手応えが残らない。
そんな苦しい状態が続いてしまいます。

 

「返事がいい」ことと、「理解している」ことは、
必ずしも同じではありません。

 

 

「いい音楽」より「評価」をゴールにした練習になっている

レッスンをしていて、ときどき感じていたのが、
音楽そのものよりも、「どう見られるか」を意識して弾いている状態です。

  • 先生に褒められるように
  • 注意されないように
  • 親に「ちゃんとやったね」と認めてもらえるように

その目的で練習してくる子がいます。

 

大きなミスはない。
流れも止まらない。
「合格」はもらえる。

 

だから、これは決して悪いことではありません。
むしろ、とても要領がよく、
周りをよく見て行動できる力でもあります。

 

でもその一方で、演奏を聴いていると、
「いい音楽にしよう」という方向には、エネルギーが向いていない
そんな感覚になることがありました。

 

合格をもらって、
「はい、次へ」。

 

また次の曲でも、
同じように無難に仕上げて、
また合格をもらう。

 

この繰り返しの中では、音を味わう時間や、
「ここ、好きだな」と立ち止まる瞬間が、
どうしても少なくなってしまいます。

 

ピアノは、
本来もっと寄り道できるものです。
立ち止まってもいいし、
深くハマってもいい。

 

でも、評価をゴールにした練習では、
その余白が生まれにくい。

 

結果として、ちゃんと進んでいるのに、
どこか楽しめていない。
そんな感覚が残ってしまうことがあります。

 

それは、能力の問題ではなく、
目的が少しだけ、外側にずれてしまった状態なのだと思います。

 

 

まとめ

ピアノが滞ってしまうとき、
それは才能や努力が足りないからではありません。

 

多くの場合、
がんばり方や、向いている先が、少しずつズレてしまっただけです。

  • 弾き流すように練習してしまう
  • ミスを直すことがゴールになる
  • 楽譜の上の音楽から出られない
  • 「わかった」と言いながら、本当は置いていかれている
  • 評価されることが目的になっていく

どれも、
真面目で、ちゃんとやろうとするからこそ起きることです。

 

ピアノは、「理解してから弾く」学びではなく、
「弾きながら気づいていく」学び。

 

合格をもらうことや、
褒められることも大切ですが、
それだけが続くと、音を味わう時間や、立ち止まる余白が失われていきます。

 

もしこの記事を読んで、
「量の問題じゃなかったのかもしれない」
「やり方より、向いている先かもしれない」
そんな感覚が少しでも残ったなら、
それはもう、大切な一歩目です。

 

やり方を変える前に、
まずは、どこに意識を向けて弾いているか
を、そっと見てみてください。

 

ピアノが滞るとき、そこには必ず、
音楽に戻るためのヒントが隠れています。

 

 

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