早く上手になりたい子ほど、ゆっくり練習を嫌がる?
ピアノの練習をしている子どもに、
「もう少しゆっくり弾いてみたら?」と声をかけても、
なぜかすぐに元の速さに戻ってしまう。
まだ音も指使いも曖昧なのに、
最初から仕上がりに近いテンポで弾こうとする。
何度もつっかかり、何を弾いているのかわからないような状態になっても、
ゆっくり確認しようとはせず、また最初から勢いよく弾き始める。
そんな姿を見ていると、「どうして、もっと丁寧に練習できないの?」とか、
「先生にも、ゆっくり弾くように言われているのに」と、
つい言いたくなることもあるかもしれません。
けれど、こうした子どもは、必ずしもやる気がないわけではありません。
むしろ、「早く上手になりたい」「早く曲らしく弾きたい」
という気持ちが強いからこそ、
上達するために必要な途中の工程を、飛ばしてしまうことがあります。
そして、そこにはもうひとつ、「練習を早く終わらせたい」
という気持ちが重なっていることもあります。
速く弾くことが、「上手に弾くこと」になっている
子どもにとっては、速く弾くことが、
そのまま上手に弾くことになっている場合があります。
先生やお手本の演奏を聴くと、
曲はなめらかに流れ、音楽らしい速さで演奏されています。
子どもは、その完成した音楽を聴いています。
そのため、ゆっくり弾くと、「曲らしくない」
「なんだか下手になったみたい」「これでは全然、弾けている感じがしない」
と感じることがあります。
大人にとっての「弾けた」は、音やリズムが合い、
途中で止まらず、ある程度整っている状態かもしれません。
けれど子どもにとっては、「とりあえず最後まで指を動かした」
「知っている曲のような速さで弾いた」ということが、
「弾けた」になっていることがあります。
親や先生が考える「弾けた」と、
子どもが考える「弾けた」には、少し違いがあるのです。
速さで、できていないところを見えにくくしている
ゆっくり弾くと、できていないところがよく見えます。
音がわかっていない。指使いが決まっていない。
左右の手が合っていない。リズムが曖昧。
次にどの音を弾くのか、まだ覚えていない。
速く弾いていると、こうした部分を勢いで通り過ぎることができます。
実際の演奏は崩れていても、
本人の頭の中では完成した曲が鳴っているため、
子ども自身は「だいたい弾けている」と感じていることもあります。
ところが、ゆっくり弾くと、
わからない音や、動かない指と一つずつ向き合わなければなりません。
つまり、ゆっくり練習は、子どもにとって、
「まだできていない自分を見る時間」にもなるのです。
すぐにできないことを嫌がる子や、
間違いを指摘されることに敏感な子ほど、
ゆっくり弾くことを避けようとする場合があります。
「早く上手になりたい」と「早く終わらせたい」は両立する
親御さんから見ると、「早く上手になりたいなら、
もっと丁寧に練習すればいいのに」と思うかもしれません。
けれど、子どもの中では、「早く上手になりたい」という気持ちと、
「練習にあまり時間をかけたくない」
「面倒なことは、さっさと終わらせたい」という気持ちが、
同時に存在していることがあります。
曲は早く完成させたい。
けれど、同じところを何度も弾くのは嫌。
上手にはなりたい。
けれど、片手練習や部分練習は面倒。
できるようにはなりたい。
けれど、できない状態に長くいたくない。
一見すると矛盾しているようですが、
子どもにとっては自然なことでもあります。
まだ、「小さな練習の積み重ねが、
やがて一曲を弾けることにつながる」という実感を持てていないのです。
そのため、途中の練習が、上達のための道ではなく、
完成を遅らせる遠回りのように見えてしまうことがあります。
✦ 早く終わらせたい」「早く先へ進みたい」という気持ちは、
「早くまるがほしい」という思いにもつながります。
早く「まる」がほしい生徒の心理とは👇

コツコツできないのではなく、途中の成果が見えていない
こうした子どもを見ていると、
「この子は、コツコツ努力することが苦手なのかもしれない」と
感じることもあるでしょう。
実際に、すぐに結果が見えないことを続けるのが苦手な子もいます。
同じことを何度も繰り返すのが退屈。
どこまでやれば終わるのかわからない。
少しできるようになっても、それを進歩だと感じられない。
最初から最後まで弾けなければ、「できた」と思えない。
そんな子もいます。
けれど、それは必ずしも、
その子が努力できないということではありません。
まだ、小さな変化を「上達」として見つけることができていないのかもしれません。
たとえば、昨日より一音先まで弾けた。迷っていた指使いが決まった。
途中で止まる回数が一度減った。
右手だけなら、なめらかに弾けるようになった。
こうした変化は、大人から見れば立派な進歩です。
けれど子どもは、一曲全部が弾けるようになっていなければ、
「まだできていない」と感じることがあります。
そんなときは、「まだ全部弾けないね」とできていない部分を見るよりも、
「さっきより、ここが止まらなくなったね」
「この指使いは、もう迷わなくなったね」と、
小さな変化を言葉にしてあげることが大切です。
何度も「ゆっくり!」と言っても変わりにくい理由
家庭練習では、つい、「もっとゆっくり弾いて」
「また間違っているよ」「ちゃんと練習して」
「先生にも言われたでしょう」と言いたくなることがあります。
もちろん、間違ったことを言っているわけではありません。
けれど子どもには、「また注意された」
「自分の演奏を否定された」「練習がさらに長くなる」
「もっと面倒なことをさせられる」と伝わってしまう場合があります。
また、「ゆっくり」という言葉だけでは、子どもにとっては具体的ではありません。
どのくらいゆっくりなのか。
曲全部をゆっくり弾くのか。
どこだけ練習するのか。
何回やれば終わるのか。
それがわからなければ、子どもはまた、
自分の弾きやすい速さに戻ってしまいます。
正しいことを何度も伝えるよりも、
「どこを、どのように、何回やるのか」を
小さく示したほうが、子どもは動きやすくなります。
✦ 家庭練習では、気になるところが見えるほど、
つい声をかけたくなるものです。
どこまで口を出し、どこから先生に任せるか迷う方は、
こちらも参考にしてみてください。
ピアノ練習に口を出しすぎてしまう親御さんへ👇

家庭では、練習を小さく区切ってみる
ゆっくり練習を嫌がる子に、
曲の最初から最後までをゆっくり弾かせようとすると、
子どもにとっては長く、退屈に感じられることがあります。
まずは、練習する範囲を小さくしてみましょう。
「この2小節だけ」「右手だけ」「つっかかるところだけ」
「一回だけ、音を確認しよう」というように、短く区切ります。
また、「できるまで何回もやろう」では、いつ終わるのかわかりません。
終わりが見えない練習は、早く終わらせたい子にとって、ますます嫌なものになります。
たとえば、「ここをゆっくり3回弾いたら、
最後に好きな速さで弾いてみよう」と、
回数や終わりを決めておくと、取り組みやすくなります。
速く弾くことを、すべて禁止する必要もありません。
速く弾きたい気持ちは、その曲への憧れや、
「こんなふうに弾けるようになりたい」という意欲でもあります。
そのため、「一度ゆっくり確認したら、最後は速く弾いてみよう」
「ここが弾けたら、曲らしい速さに戻してみよう」と、
速く弾く時間も残しておくとよいでしょう。
ゆっくり練習が、完成した音楽につながる途中の工程だと感じやすくなります。
練習前と後の違いを、本人に聞いてみる
練習したあとに、「ほら、よくなったでしょう」と大人が評価するだけではなく、
「さっきより弾きやすくなった?」「どちらのほうが、指が動かしやすかった?」
「何が変わったと思う?」と、本人に聞いてみることも大切です。
ゆっくり練習したことで、少し弾きやすくなった。
間違えなくなった。指が迷わなくなった。前より止まらなくなった。
そんな変化を子ども自身が感じられると、
ゆっくり練習が「ただ面倒なこと」ではなくなっていきます。
大切なのは、親が正しい練習をさせることだけではなく、
子ども自身が、「こうやって練習すると、少し弾きやすくなるんだ」と気づくことです。
親は、先生の代わりにならなくていい
家庭練習を見ていると、音の間違いや指使い、
リズムの崩れなど、気になるところがたくさん見えてくるかもしれません。
けれど、親御さんが毎日すべてを直そうとすると、
家庭での練習が親子で注意し合う時間になってしまいます。
親が、先生の代わりになる必要はありません。
家庭でできるのは、先生から何を練習するように言われたかを確認する。
練習する場所を小さく区切る手助けをする。
何回やったら終わるのかを一緒に決める。
できなかったところだけでなく、少し変わったところにも気づく。
それくらいでも十分です。
技術的なことや、どのような練習をさせたらよいかわからないときは、
先生に相談してみてください。
家庭では、正しく教えることよりも、
子どもが練習に取りかかりやすい環境をつくることのほうが、大切な場合もあります。
ゆっくり練習は、途中を積み重ねる練習
ピアノのゆっくり練習は、ただテンポを落として弾くことではありません。
できないことを小さく分ける。
一つずつ確認する。
すぐに結果が出なくても、少し続けてみる。
小さな変化に気づく。
そうした、完成までの途中を積み重ねる練習でもあります。
けれど、最初からコツコツできる子ばかりではありません。
早く上手になりたい子ほど、途中の工程が遠回りに見えてしまうこともあります。
そして、早く上手になりたい気持ちと、
練習を早く終わらせたい気持ちは、
子どもの中で同時に存在することがあります。
だからこそ、何度も「ゆっくり弾いて」と注意するだけではなく、
「ここだけやってみよう」「3回やったら終わりにしよう」
「さっきより、どこが弾きやすくなった?」と、練習を小さくし、
変化を一緒に見つけていくことが大切です。
「ゆっくり練習したら、少し弾きやすくなった」
その小さな体験を重ねることで、子どもは少しずつ、
練習することの意味を知っていきます。
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